”均分相続”に潜むトラブルの火種

“平等”と“公平”は違う難しいきょうだい間の権利調整

税金対策よりも優先

相続対策で必要なことは大きく分けて次の三つ。

①「節税対策」。アパートなどの建物を建て、不動産の評価を下げる。養子縁組で相続人を増やす。生命保険の非課税枠を使う。

②「納税対策」。生命保険の活用などにより納税資金を確保。事前に相続税を試算し、売却する土地を選別、確定測量を済ませて、納税期限内に換金できるようにする。

③「遺産分割対策」。不良資産を整理し分けやすくしておく。遺言書の作成により、遺産分割が円滑に進むようにする。その内容についても、家族が集まったときに、あらかじめ家族全員にその内容を伝える。どういう思いを持ってその遺言書を作成したのかも共有する。

 多くの地主、家主の相続のケースで、相続対策というと、税金対策を優先し、中でも「節税」対策を優先して行う。だが、節税対策をしても、いざ納税資金がなければ、意味がない。

 さらに、納税資金を用意できても、申告期限までに遺産分割協議がまとまらないと、評価減などの特例や特別控除が使えない。つまり、相続対策の優先順位は次の通りになる。

  • 遺産分割
  • 納  税
  • 節  税

「三つが同じ方向に向いていないとうまくいかない」。こう話すのは、本誌で2020年12月号まで100回を超える連載を執筆していただいたアルファ野口(川崎市)の野口賢次社長だ。 優先順位を誤ると悲惨な状況になると野口社長は事例で解説する。

裁判所での相続トラブルは増加傾向

 例えば、2億円の土地があって、その上に2億円の借金をして賃貸住宅を建てたら、相続税評価額は半分の1億円になる。節税対策としては成功だろう。

 だが、相続が発生した後、納税資金が足りないことに気付き、相続税が払えないことに。それならば賃貸住宅を建てずに駐車場にしておけば、土地は2億円で売れて余裕で納税できたはずだ。  それでも、何とかお金をかき集めて相続税は納税できたとする。

 だが、残ったのは借金が残る賃貸住宅1棟。これを相続人の子ども3人では分けられないため、共有名義となる。節税対策はできたが、遺産分割対策は失敗だ。

  悲劇を防ぐ遺言書

 かつて日本の相続制度は長男が一切の財産を相続する「家督相続」だった。1948年の新民法により、以降「均分相続」となった。

 「均分相続は『平等相続』です。決して『公平相続』ではありません。平等と公平は似ているようで意味は相反します」と野口社長は話す。平等と公平の違いについて、「お年玉の金額を見てください」と言う。

 小学生、中学生、高校生の子どもにお年玉を一律1万円渡すのが平等。だが、実際袋の中には、3000円、5000円、1万円と年齢に応じた金額を入れるのが一般的だ。それを公平と呼ぶ。

 相続財産についても、均分相続では、いくら長男が家業を手伝い、親の介護で肉体的・精神的な負担を抱えたとしても、介護も何もやってこなかった他のきょうだいとは平等に分けることが均分相続なのだ。だが、相続が発生すればきょうだいたちは法定相続分の権利を主張する。現金がなければ、不動産を売却し、自宅までも売却しなければ分割することができないケースもあるだろう。

 こんな事態を防ぐことができるのは、親の遺言書。「均分相続は平等相続。相続が開始してからでは何もできません」(野口社長)遺言書の存在は重要だ。

アルファ野口
(川崎市)
野口賢次社長(74

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