【連載】資産価値を維持する “省エネ”賃貸住宅:10月号

賃貸経営住宅設備・建材

最終回 高断熱賃貸住宅の収益性を向上させる法

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

断熱等級6や7は集合住宅ではかなり容易

「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が始まり、今後、賃貸住宅も断熱性能で選ばれる時代を迎えつつあります。

 前回説明したように、高断熱化にする光熱費の削減額では、戸建て住宅より集合住宅のほうが費用対効果が高くなります。上下左右に住戸があり外気にさらされる壁面が少なく、冷暖房の効率が良くなるためです。

 さらに、22年から集合住宅の断熱性能の評価のルールが変更され、集合住宅はより容易に高い断熱等級を得られるようになりました。従来は集合住宅の隣接住戸との壁(界壁)の熱損失も一定程度計算に入れられていましたが、界壁の熱損失はゼロと変更されたことが理由です。

断熱等級6の仕様が断熱等級6.5の評価に

 このルール変更により、同じ建物でもより高い断熱等級の評価となり、表示等級が変更できるようになりました。特に上下左右に住戸がある中住戸がその恩恵を受けます。当社の試算では、断熱等級6であるUA値(外皮平均熱貫流率)0・46の中住戸は、新ルールで計算し直すと0・37になります。
 公的な表現ではありませんが、断熱等級6と7の間の性能として、一部では、UA値0・36の断熱性能を断熱等級6・5と呼びます。
 断熱仕様を変更せずとも有利な評価になるのです。
 これから新築する賃貸住宅は、この変更を活用して、より高い断熱等級の評価を得るようにすることが、今後の賃貸住宅の経営上重要だと思います。
 一方で、注文住宅マーケットに比べて、賃貸住宅の居住者層の気密・断熱性能に関する認知や理解は進んでいません。そのため、断熱性能向上に伴うイニシャルコスト増加分を直接的に家賃の引き上げで回収することは、現時点では難しいのが現実です。

一括受電による高断熱賃貸住宅の差別化

 現時点では、高気密・高断熱住宅に対し知識や興味のない賃貸住宅居住者層に、メリットをいかにわかりやすくアピールするかがポイントになります。

 そこで近年、高気密・高断熱化と太陽光パネル・蓄電池の設置を行い、一括受電契約にする賃貸住宅が徐々に増えています。一括受電とは、従来各戸ごとに結んでいた電力契約をオーナーがまとめて契約し、各戸に電気代を請求する方法です。安価な高圧電力契約にすることで、電気代を5~30%程度削減できるといわれています。

 そのため、各戸に従量制で電気代を請求するのではなく、毎月定額料金にする(サブスクリプション化)賃貸住宅も出てきました。入居者にすると、今まで住んでいた断熱性能の低い住宅に比べると割安感のある定額料金で冷暖房や電気が使い放題になるため、電気料金の上昇が続く中、メリットを感じます。

 これは、高気密・高断熱化による経済的なメリットを、オーナーと賃借人でシェアする仕組みであるということができます。
 そうはいっても、例えば真冬に窓を開けっ放しで暖房されてはたまったものではありませんから、各戸に子メーターを設置して、常識的な使用量を超えた場合は、課金する仕組みにする例が多いようです。

よりわかりやすく差別化する新手法

 もっと簡単なアピール方法もあります。

 リビングの壁掛けエアコンを共用部の電気回路に組み込み、エアコンの電気料金を管理費に含む方法です。ファミリータイプの住戸でも、高気密・高断熱化すると、リビングの6畳用のエアコン1台で、家中を快適な温度に保つことができます。

 すべての電気代を定額にするのではなく、エアコン1台分の電気代のみをオーナー負担(管理費による定額の徴収)になるという、非常にシンプルな方法です。

 高断熱賃貸住宅を新築する際には、電気やエアコンを使い放題にすることを検討してほしいと思います。

 省エネ賃貸住宅については今回が最終回となります。次号からは、資産価値を継続できる賃貸住宅の基本性能について考えたいと思います。


住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年10月号掲載)
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