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- 次世代不動産オーナー 井戸端セミナー第2弾:第1講
不動産業界において大きな変化が起こりつつある中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する吉原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、「共感不動産」という新たな経営コンセプトを通して、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方良し」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催。その第2弾として開催中の連続セミナーの講演内容を5回にわたりレポートする。
▲セミナー会場の様子
第1講【賃貸リノベーションの歴史から】「リノベーションミュージアム山王マンション」で何が起こったか
持続可能な賃貸経営を学ぶカレッジ第2弾が始動
全国から集まった受講者「経営のデザイン」を学ぶ
2023年4~9月、「不動産オーナー井戸端ミーティング」では、「サスティナブル不動産経営のプロを養成するための次世代不動産経営実務者カレッジ」を全6回で行いました。ここでは、個々の不動産の経営理念を確立し、「コンセプトのデザイン」を基に、新たな経営計画策定を目標としました。経営初心者からベテランまで、全国の異なるバックグラウンドを持つ人たちが一堂に会し、持続的な経営に向けた知識を相互に共有。それにより、不動産オーナー主体の一貫した経営への思いにつながる学びの場が確立された半年間でした。
これをきっかけに自分の不動産を新たな視点で動かし始めた人から新事業に取り組み始めた人、不動産業界に身を投じた人、まちぐるみの変化を起こし始めた人まで出現。それは、あたかも不動産をベースにした社会的起業家の養成の場のようでした。
第2弾のテーマは「場のデザイン」
経営計画策定を経た前回に続く第2弾のセミナーでは、建物・外構のみならず、まちに向けた「場のデザイン」の計画策定と実行手法を学びます。ここでも「場のデザイン」に「コンセプトのデザイン」と「関係性のデザイン」を同調させるための思いと技術が焦点になります。
そして、不動産経営にこれら三つのデザインを結び付けることで、対象不動産はもちろん、エリアの価値向上までもたらすことを、今回も参加者全員で体験していきます。それにより、われわれのような不動産分野で働く人たちが、次世代のためにできるかもしれない、やりがいや夢を確立したいと思います。
まずは、「山王マンション」から始まった賃貸リノベーションムーブメントの体験を基に、賃貸リノベの歴史をひもときます。
山王マンションは築55年という築古の賃貸マンションで、設備が古くバルコニーもない、経営難に陥っている物件でした。しかし、リノベを行うことで物件は生まれ変わり、現在では満室の状態が続いています。これは、リノベが単なる建物の美観向上だけでなく、ブランドも含めた資産価値を高め、入居者に魅力的な居住空間を提供することを示唆しています。山王マンションは20年にわたるリノベの社会実験から、賃貸リノベが持続可能な社会を導く可能性を示し、大きな注目を集めました。
■コアの概念「共感不動産」三つのデザイン
建物修復だけではない リノベによる価値づくり
リノベは、地域社会や入居者との関係にも影響を及ぼします。山王マンションは、45室中33室のリノベを経て、新しい価値を生み出すことに成功しました。リノベにおいては、その過程で入居者との関係性を深めることが非常に重要です。
例えば、山王マンションでは07年に「山王Rプロジェクト」として福岡の10人のデザイナーに、10部屋を同時につくってもらいました。これが、古い賃貸をリノベすることの魅力を知ってもらうきっかけとなりました。さらに翌年には、全国10以上の大学が集まった「学生リノベーションコンペ」を実施。プロの建築家だけでなく、アマチュアも賃貸デザインで活躍できることがわかりました。
そのような取り組みを行う中、入居者から「自分もちょっとDIYで部屋を塗ってみたい」という話をいただくようになり、一緒にやることに。この時にDIYが単なるものづくりの世界にとどまらず、人と人の関係性を良い形につないでいく材料になっていることを知りました。
入居者が自身の部屋をカスタマイズすることで、建物への愛着が生まれ、入居者間で関係性が築かれることになったのです。リノベが物理的な改修だけでなく、人のつながりや新しい文化の創造など、単なる建物の修復以上の価値をもたらすことがわかってきました。
四つの類型をベースに 地域の物件の特性考え再生
入居者の個性ごとに素晴らしい部屋が生まれることを目の当たりにし、リノベには四つの類型があることが見えてきました。一つは、部屋をゼロからつくり直す「スケルトンリノベ」。老朽化し過ぎた物件では必須になりますが、それなりにお金がかかります。やらなくてもいい範囲がわかってくると、二つ目の「エコリノベ」という壁は壊さない、200万円くらいでできるもの。
三つ目はデザイン性で表装を変えていく「プチリノベ」。四つ目が入居者本人にリノベしてもらう「DIYリノベ」。少ない投資でも、人気物件がつくれるという経験をしました。
この四つの類型を各物件やまち、賃貸経営者の特性に合わせて組み立てることで、さまざまな不動産の再生ができることもわかってきました。
リノベは単なる建築プロジェクトではなく、地域の再生や文化的な発展に不可欠な要素だといえます。経年を劣化ではなく優価に変えるリノベは、持続可能な都市再生の重要なカギです。
今後のカレッジでは、建物、地域社会、文化全体に与える影響についての議論を深め、新しい価値が創造されていくことを期待しています。
𠮷原勝己オーナー(61)
(福岡市)
(2024年4月号掲載)
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