話題のスポット:寺の貸宅地を活用

賃貸経営地域活性

戻ってきた寺の貸宅地を活用
産業を生み出す場所づくりを目指す

地域に開かれた共用スペース付きのシェアハウス「八王子天神町OMOYA(オモヤ 以下、OMOYA)」は、2022年11月にオープンした。開業から1年余り経過し、地域と緩くつながれる場所をつくるために、試行錯誤の日々だ。

日蓮宗 本立寺
(東京都八王子市)及川一晋住職(56)

シェアハウスを交流の場へ

 アパートの入居者と近隣住民が、共用キッチンでゆでた大豆をつぶし、みそ作りに挑戦している。ここは、JR中央線八王子駅から徒歩10分、閑静な住宅街の一角にあるOMOYA。築57年を超える戸建て住宅(東棟)と築44年のアパート(西棟)で構成されるシェアハウスだ。

▲料理部の部員が、つぶした大豆でみそ玉を作り、保存容器に詰め込む

 本立寺(東京都八王子市)が所有している同物件は元々、染色工場と賃貸アパートだった。工場を経営していた借地人から土地が戻ってくる際、本立寺の及川一晋住職は「土地を地域の活性化のために活用したい」と考えた。

 そんな折、檀家(だんか)の一人が以前から関わりのあったエヌキューテンゴ(東京都杉並区)の齊藤志野歩代表取締役に相談した。エヌキューテンゴは、「まち暮らし不動産」として地域と交流しながら暮らすことができる不動産の企画や運営を手がける会社だ。「20年に現地を見に行った際、本立寺と地域のNPOが協力して、本立寺の所有地を私設公園『天神町ぼうけんひろば』として、運営し始めていました。月1回のイベントにより、地域のコミュニティーが広がっている、その取り組みを見て、この物件も交流の場所として成功する可能性を感じました」と齊藤代表取締役は話す。

 地域にコミュニティースペースがなければ、つながりが広がらず、息苦しい環境になると考えていた齊藤代表取締役の考え方が、及川住職の目指す地域の活性化に合致した。住居や店舗だけでなく、さまざまな用途に使用できるスペースをつくり、地域の人々が緩くつながれるような環境を整えることを意識した。

▲「おたがいさまメシ」で作った料理を、ワンプレートに盛り付ける

活動の自然発生を目指す

▲庭いじりのイベント参加者は、OMOYAの庭に夏野菜の苗を植えた

 共用スペースは、OMOYAの入居者と、月額500円のメンバーシップ登録者が利用できる。入居者のセキュリティー対策のために、不特定多数の人が使うのではなく、登録制にした。
 東棟の共用スペースの隣には、テイクアウト用の窓が取り付けられたファクトリーキッチンも設置されている。

 菓子製造業の認可が取得できるファクトリーキッチンには、交流だけでなく、ここから産業を生み出したい、という思いが託されている。八王子市ではマルシェの開催も多い。そのため「普段は子育てをしている女性が、期間限定でクッキーを焼いてマルシェで販売するといった使われ方ができたらいいなと考えています」(齊藤代表取締役)

 開業から1年たち、共用キッチンで入居者が夕食を作って食べる「おたがいさまメシ」や、生ごみを堆肥に変える「段ボールコンポスト」の講座などが開催された。そのうちの一つが、「料理部」によるみそ作りだ。

 参加者は「共用キッチンで、いろいろな人が集まって調理すると、自分の常識が当たり前でないと気付きます。常識の違いから会話するきっかけが生まれ、コミュニティー形成に役立っています。家庭ごとの常識の違いを楽しんでいきたいですね」と語る。「現在活動している料理部だけでなく、自然に『部活』が発生していくといいと思っています。『部活』を名乗ると、大人もの純粋に遊ぶことができます」(齊藤代表取締役)

 現在、イベントの主催者は、地域住民やエヌキューテンゴがメインだ。OMOYAの入居者から、イベントの主催者が出てくるような環境を整えたいと齊藤代表取締役はいう。地域に根付いたスペースとなるためには、継続して場づくりをしていくことが必要なのだ。

▲OMOYA全景。東棟は、入り口から見えるように一部増築した


▲「天神町ぼうけんひろば」と連携したイベントで、OMOYAはスタンプラリーの会場となった

(2024年4月号掲載)

この記事の続きを閲覧するには
会員登録が必要です

無料会員登録をする

ログインはこちらから

一覧に戻る

購読料金プランについて