誰かに教えたくなる 名字のトリビア:第2回
土地に関する名字
「地主」といえば、土地を所有している人を指しますが、一般的には資産価値のある土地や、広大な面積の土地を所有している人に使われる言葉です。
「地主」という言葉は古く、古代には土地の主(あるじ)として土地を守る神を表していたようです。
やがて、日本の長い歴史の中で田や畑をたくさん所有する大地主や、山林を所有する山林大地主と呼ばれた人々が生まれました。
第2次世界大戦後、GHQが主導した農地改革によって大地主の土地が分散されました。そのため戦前の大地主ほどの規模ではありませんが、現在も大地主と呼ばれる人がいます。
地主という名字が存在する
日本には「地主(じぬし)」という名字があります。全国に約400軒存在し、各地に分布しています。中でも、山形県鶴岡市や酒田市、秋田県美郷町、三重県多気町、宮崎県えびの市などに多く在住しています。
名字の由来は、古代の「地主」と呼ばれた役職や、京都府や高知県、長崎県に存在する「地主神社(じしゅじんじゃ)」「大地主神社(おおとこぬしじんじゃ)」に関係がありそうです。いずれも、土地を守る大国主命(おおくにぬしのみこと)を主祭神とする神社です。大国主命は、別命大国主神(おおことぬしのかみ)とも言われます。
一方、屋号から付けられた名字ではないかとも考えられます。
昔は、それぞれの家に屋号と呼ばれるものがあり、商売や屋敷の位置などから名付けられました。たくさんの土地を所有していたことから「地主さん」と呼ばれ、名字を「地主」にしたと考えられます。
土地に関わる名前もさまざま
名字の中には、地主に関わりそうな名字もたくさん存在しています。
「地主」さんは、都市部にも、田舎にもおりますが、「都市(とし)」さんは長崎県に、「田舎(いなか)」さんは山口県に存在しています。
またさまざまな土地がありますが、「土地(とち)」さんは富山県に、「田(た・でん)」さんは千葉県・兵庫県に、「畑(はた・はたけ)」さんは兵庫県・京都府に存在します。
「敷地(しきち)」さんは高知県・埼玉県に、「屋敷(やしき)」さんは広島県・富山県にある名字です。
地形に関する名字として、「山(やま)」さんは石川県・鹿児島県に、「山林(やまばやし)」さんは富山県に、「沼(ぬま)」さんは全国に存在しています。
ちなみに、「地主」とは逆の意味で使われる「小作」という名字が東京都に存在し、こちらは「こさく」ではなく「こざく」と読みます。
名字の由来は現在の東京都羽村市にある「小作台(おざくだい)」の地名と思われます。
「小作(おざく)」の地名の由来は、一説によれば長野県佐久地方に似た地形ということから、「小さな佐久」で「小佐久(こさく)」になり、やがて「小作(おざく)」になったとのことです。
結果として、どれも現代では難読な名字になっているというわけです。
名字研究家 髙信幸男

1956年茨城県大子町生まれ。
司法書士、名字研究家、日本家系図学会理事、茨城民俗学会会員、日本作家クラブ会員。高校1年生から名字の研究を始め、今年で52年目を迎える。現在、講演会やテレビ番組で名字の面白さを伝える活動を行っている。
(2025年7月号掲載)