建て替えよりも改修のほうが利益が高い

賃貸経営不動産再生

<<文化財を生かす>>
「築90年超の長屋の価値」から続く。近代長屋で初の登録文化財となる可能性を示されたのをきっかけに修繕・活用の道を選んだ寺西オーナー。経営的にもメリットの多い築古再生とは。

修繕して活用するほうが 建て替えより収益性が高い

 リニューアル工事によって、寺西家阿倍野長屋が趣のあるデザインに生まれ変わったのは、2004年のこと。もとより収益目的ではなく、父親と2人で「面白い」と思い、始めた改修だったが、オープン後しばらくして落ち着いたころ、寺西オーナーはマンションに建て替えた場合と今回の古家再生の収支を計算し、比較してみたという。すると、驚いたことに予想に反して古いまま修繕して活用したほうが収益性も高かったことが判明した。

 「実はリニューアル後も心の中では『マンションにしたほうが収益性は高かったのだろうな』と少しだけ後悔していたのです。しかし、対比してみて自分でもびっくりしました。それは違ったのです。むしろ正反対でした」(寺西オーナー)

建て替えと改修で比較 税金や経費に大きな差

 新築マンションへの建て替え計画では、1戸あたり60㎡の10戸となる見込みだった。立地から見て家賃は1戸あたり12万円ほどと計算した。入居率を95%とした年間家賃収入は1368万円だ。一方、長屋を残してリニューアルした結果、1戸あたり90㎡の4戸で家賃は20万円。同じく入居率を95%とすると年間家賃収入は912万円となる。収入だけで見れば確かにマンション建設の実入りのほうが大きかった。

 しかし、問題は支出だ。建て替えた場合は建物の価値が上がるため、土地建物の固定資産税と都市計画税の合計で税金が年額150万円かかる。一方長屋は同47万円とわずか3分の1程度で済んだのだ。

 「登録文化財にすることでの固定資産税の減免は3万円なので、メリットはほとんどないと思い込んでいました。しかし、古い長屋を取り壊して新築マンションを建設すれば、不動産評価額が上がって税額も跳ね上がってしまいます。古い建物を生かす場合との比較では、税額に大きな差が生じてしまうのです」(寺西オーナー)

 さらに大きいのが借入金の返済だ。マンション建て替えの場合は年800万円の返済となるところ、長屋修繕は手持ち資金しか使っていないので返済がない。

 結局、入居率が95%と想定した場合、家賃収入に対して経費や税金を差し引いて手元に残るのはマンションが300万円に対して、長屋が800万円。長屋は満室が続いているので、実際は900万円程度が手元に残る。

 登録文化財にしたこと自体にもメリットがあった。飲食店の客からは「文化財で食事をする」という体験が高く評価されている。時折入居テナントの入れ替わりもあるが、すぐに次が決まるのも文化財であることが一役買っているだろう。

▲「つなぐ古民家」でのたこ焼きパーティーの様子

築古生かす魅力を伝える 文化財オーナーと交流

 リニューアルしてから20年、寺西家阿倍野長屋は人気の商業テナントとして満室稼働を続けている。年間の手残りは約900万円。20年での累計は1億8000万円にものぼる。飲食テナントとしての稼働は築70年からスタートして現在築90年なので、人間に例えれば還暦をとっくに過ぎた70歳の人が90歳までバリバリの現役で稼いできたようなものだろう。しかも90歳を過ぎてなお現役だ。

 「今後も、可能な限り建築当時の外観のまま活用し、次世代に引き継いでいきたい」と寺西オーナーは語る。木造建築は、日常管理をしっかり行うことで、使われている木材そのものは100以上むしろ強度が増していくといわれているからだ。

 長屋に続き、向かいの自宅である母屋も05年に文化財として登録した。古い建物を生かす魅力と、収益を上げることができる価値があると感じたこと、相続税の評価額が建物・敷地両方で30%抑えられることが理由だ。

 以来、寺西オーナーは自分の所有物件以外のオーナーとの交流にも力を入れている。はじめは文化財に興味があったわけではなかったが、自分の経験が役に立つならと、18年には大阪府登録文化財所有者の会の会長にも就任している。

▲現在は、全国登録文化財所有者の会の会長も務める

 17年に新たに取得した不動産も登録文化財だ。登録文化財所有者の会の会員である所有者が亡くなり、売りに出された600㎡ほどの土地に建つ江戸時代中期の商家があった。「不動産会社に聞くと、誰も買い手がつかなければ取り壊して何軒かの建売住宅にするというのです。それは困ると感じて、長屋の収益を使って購入しました」(寺西オーナー)

 5000万円で購入するも、かなり傷んでおり、修繕には1億2000万~1億3000万円かかった。だが古い建物を守りつつ、そこから収益を上げるため、24年10月に民宿とレンタルルームとして「つなぐ古民家」をオープンした。

 長屋改修を通して、古い建物を守る道を歩んでいる寺西オーナー。ただ所有するだけでなく、利益を生み出す運用を続けていきたいという。

 「登録文化財というと、とかく収益性とは全く無縁の、それこそボランティア活動と思う人が多いでしょう。実際私もそうでした。しかしこの寺西家阿倍野長屋でわかるように、むしろその古き良きところを生かせば、立派な収益物件になるのです。古い建物を所有している地主さん、家主さんにはぜひそのことも知ってもらいたいですね」(寺西オーナー)

▲海外から訪れた人は日本の浴衣を楽しんだ

(2025年8月号掲載)
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