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<<欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード:5回>>
ハワードの夢、そして米国が英国のリースホールドに立ち返ったわけ
ガーデンシティ構想からの応用
住宅地が資産価値を維持・持続させるためには、その都市開発方法と管理が現在から将来にわたって魅力にあふれ、確実に優れた環境として守られる必要があります。米国人たちは環境を恒久的に守る方法として、英国のリースホールド(定期借地権)の考え方を踏襲する必要があると考えました。
地主が実践してきた手法を近代の都市経営として体系化した理論が、英国の社会改良家で「近代都市計画の祖」と呼ばれるエベネツァ・ハワード(1850年 ‐ 1928年)によるガーデンシティ理論です。
ガーデンシティ理論については大変複層的なため、かいつまんだ説明になりますが、右下を参照ください。
このガーデンシティ理論に基づいて、英国ではレッチワース・ガーデンシティ(※1)をはじめとする都市開発が行われました。またハワードの業績に着想を得て、田園郊外(Garden Suburb、庭園郊外とも訳される)であるハムステッド・ガーデンサバーブ(※2)などの開発も進められました。これらの取り組みは、のちに米国の都市経営にも応用されていきました。
1986年、現在の米国で “優れた都市づくりの理論” としての「サスティナブルコミュニティー(持続可能なコミュニティ)」が建築家・都市デザイナー・都市プランナーであるピーター・カルソープの手でまとめられ、のちに「ニューアーバニズム理論」が提唱されました。現代大統領が訪問するラグーナ・ウエスト(カリフォルニア州サクラメント)などの有名な開発実例もハワードのガーデンシティ構想を現代に置き換えて実施した例です。
またピーター・カルソープと並行するかのように、80年にフロリダ州マイアミの夫婦であるアンドレス・ドゥアニーとエリザベス・プラツァー・ザイバーグによって、建築設計事務所・都市計画コンサルタント会社「Duany Plater–Zyberk & Company(ドゥアニー・プラツァー–ザイベック・アンド・カンパニー以下、DPZ)」が設立され、96年には「ニューアーバニズム憲章」としてまとめられました。

ニューアーバニズムとTNO
DPZがデザインの基本として掲げた考え方は、古き良き時代のアメリカ、すなわちフォード・モデルT(日本では「T型フォード」として知られる車)が生産される以前の、徒歩移動が可能なスケールのまちを理想とするものでした。比較的高密度な住宅地を前提とし、建築やまち並みに関するデザインコードの統一などを重視しています。
こうした思想は、TND理論(Traditional Neighborhood Development:伝統的近隣住区開発理論)として体系化され、具体的にはフロリダ州ペンサコーラの「シーサイド」や、現代版ガーデンサバーブと呼ばれるメリーランド州の「ケントランズ」などの住宅地開発に応用されました。これらのプロジェクトはエコロジーにも配慮した理想的なまちづくりと評価され、都市開発や住宅地開発の関係者のみならず、社会学者や文化人などからも高く評価されています。
英国のチャールズ国王は皇太子時代、BBC(英国放送協会)を通じて「英国の未来像(A Vision of Britain)」というテーマにおいて「人間にとって文化的な景観とはどうあるべきか」を全国民に問いかけました。このメッセージは、視聴者のほぼ全員から共感を得たと伝えられています。実際彼は、DPZの協力を得てダッチ・オブ・コーンウォール(コーンウォール公爵所領)の一つであるドーセット州のドーチェスター郊外にある公領で、「パウンドベリー(Poundbury)」という新しい住宅地の開発に取り組み、大きな話題を集めました。
このようにして米国のみならず、英国においても成熟した手法に立ち返る形で、自国の住環境開発をますます充実させていくのです。


エベネツァ・ハワードの著書「明日の田園都市」の挿絵
(※1)レッチワース(Letchworth)は、ロンドン郊外の都市で、ハワードが提唱した田園都市(Garden City)の理念に基づいて建設された最初の田園都市(タウン)。イギリスにおいては初めての近代的な都市計画となる。
(※2) ハムステッド・ガーデンサバーブ(Hampstead Garden Suburb)は、ロンドン北西部バーネット・ロンドン特別区にある郊外住宅地区。北ハムステッド、ハイゲートの西、ゴルダーズ・グリーンの東に位置する。20世紀初頭の住宅建築と都市計画の事例として知られており、マスタープランはバリー・パーカーとサー・レイモンド・アンウィンによって作成されている。
(出所)「アメリカの住宅開発」学芸出版社
ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。
(2025年 8月号掲載)
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