<<【連載】教えて!弁護士さん 賃貸経営お悩み相談>>
賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。
Q.アパートの取り壊しのため入居者を退去させたい。
立ち退き料を支払う必要はありますか?
私の所有する賃貸アパートが非常に古くなり、十分な耐震性が確保されなくなってきました。建物が倒壊して入居者や通行人が被害に遭うといけないので、入居者には一刻も早く退去してもらい、アパートを取り壊したいと考えています。入居者を退去させるには「立ち退き料」を支払う必要があると聞いたのですが、入居者の安全を考えての対処なので、立ち退き料を支払わずに退去してもらえますよね?

A.家主から契約終了する際に必要な「正当事由」
補完するために立ち退き料を支払う場合がある
私たちの社会生活にはさまざまな取引があり、継続的な取引においては、契約で取引期間を定めていることが多いです。家主と入居者との間でも賃貸借契約が締結され、ほとんどの場合、2年間といった一定の入居期間が定められています。
一方で、建物の賃貸借契約は入居者の生活の基盤に関わるものなので、借地借家法に基づき、ほかの取引の契約とは異なる、入居者を保護するための制限が数多くあります。建物の賃貸借契約の場合には「更新」という制度が存在し、契約期間が満了しても賃貸借契約は終了しません。
家主から賃貸借契約を終了させるには「更新拒絶」という手続きが必要です(借地借家法26条1項)。またそれを行えば必ず賃貸借契約が終了するのではなく、家主側に「正当事由」が認められなければなりません。(借地借家法28条)
この正当事由は、さまざまな要素を考慮して判断されます。第一に考慮されるのは、家主と入居者双方の建物使用の必要性です。今回は、建物の安全性の観点から取り壊しを検討するということなので、家主の建物使用の必要性が高いと考えられます。ところが入居者としても生活のための建物使用の必要性が高いため、これだけでは決着がつかないかもしれません。
このような場合に、家主側の正当事由を補完するものとして、家主が入居者に立ち退き料を支払うことがあります。具体的な金額は、事情により左右されるため、決まった金額があるわけではありません。立ち退き料はあくまでも正当事由を補完するものに過ぎないので、支払うだけで立ち退きを強制することはできないのです。
立ち退き料を支払わずとも話し合いで退去に応じる入居者もいます。しかし、話し合いで解決できない場合には、入居者に退去してもらうために、立ち退き料の支払いが必要となる場合が多いと考えられます。

ただし支払ったからといって立ち退きを強制することができるわけではない。なお話し合いだけで入居者が退去に応じるケースも
私たちが答えます
TMI総合法律事務所(東京都港区)
- 野間敬和弁護士
- 辻村慶太弁護士
野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。
辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。
(2025年9月号掲載)
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