公共財産である土地に必要な施設をつくる

土地活用その他建物

<<地主の信条>>

「戦略的な不動産ビジネスとしての地主業」に続き、伊波コーポレーション(神奈川県海老名市)の伊波武則社長に現代の地主に必要なマインドについて聞いた。

間近で見る父親の苦労 デベロッパーとして知識得る

 伊波家では代々長男がすべての不動産を受け継ぐのが習わし。そのため、伊波社長も生まれながらにして13代目として育てられてきた。

 祖父の代までは専業農家だったが父親の代で兼業となった。そして、所有する土地を活用するため賃貸住宅を建設。同時に、倉庫や駐車場向けの貸地事業も始めた。

 「父は相当勉強をしていたようですが、不動産のプロではない。賃貸契約でのトラブルなど苦労も多かったようです」と伊波社長は振り返る。

 特に印象的だったのは、大学時代に同席した父親と事業者との面談の場だ。当時はバブル絶頂期、金融機関や不動産会社、建築会社はみな「融資を受けたほうがいい」「買ったほうがいい」「建てたほうがいい」と勧めてきた。それぞれの事業者が自分たちの目的を達成するために提案してくる。地主はその中から選ぶことしかできないのだろうか――。そう思った時、伊波社長は父親に「大きな額の投資はやめてほしい」と伝えた。

 「事業者に対抗できるだけの地主側の考えを持たないとつぶされるだけだと思いました。大きな額の投資はやめてほしい、その代わり自分が勉強して家業に戻ってくるので、その時に相談しながら投資を進めようと提案したのです」(伊波社長)

 そこで、大学卒業後は大手総合デベロッパーに就職し、市街地再開発事業やコンサルティング業務など、四つの部署を経験した。この経験によって培われた知識と実績があったからこそ、親戚の反対意見にも理路整然と答えることができたのだ。

手放せない物件 自宅と離れの活用法

▲地元で人気のイタリアンレストランが入居

 本家の自宅はどうしても手放すことができない。地主に共通する思いだろう。伊波社長は、自宅部分を学童保育に、離れをイタリアンレストランに改装した。ここでも「地域の人々に喜んでもらえる」という視点を大切にした。「周辺に影をつくるような高いマンションを建てるのではなく、伊波家だからできるという活用を目指しました」(伊波社長)

 

エリアに必要な施設をつくる 土地は「公共財産」と心得る

 デベロッパー時代の経験は、採算性という数字に関わることに限られない。どうすればまち全体がにぎわい発展していくのかという視点も得ることができた。これも今後の地主に必要だと考える。

 伊波家の資産でいえば、現在保育園に貸し出している土地がそれだ。父親の代ではコンビニエンスストアに貸し出していた。海老名駅からは徒歩20分超、立地条件では売却してもいい土地だった。だが、住宅地の中にあり、2駅利用可能という場所にあることから、保育園を建てることで地域に役立つ不動産活用になると見込んだ。結果としてコンビニ時代よりも収益性を上げることにもつながった。

 まちづくりという観点で最も大きなプロジェクトとなったのは、同駅前の「ららぽーと海老名」の誘致だ。伊波社長も地権者の一人として名を連ねている。

 「隣の厚木に比べたら何もないまち、というのが子どもの頃からの海老名に対する印象でした。集客装置をつくり、海老名駅を通過駅ではなく降車駅にしたいと思っていました」と話す伊波社長。

 「雇用が増えるとか来客数が伸びるとか、そうしたことに貢献できる不動産を造ることが一番いい土地の使い方だと思います。土地を所有しているのはあくまでも地主ですが、一方で土地は人のために使うべき公共財産でもあるという使命感を持って土地活用に臨んでいます」(伊波社長)

(2025年9月号掲載)
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