【連載】家主版 転ばぬ先の保険の知識:9月号

賃貸経営保険

第49回 変わりゆく損保業界のスタンスについて考える⑨

これからの損害保険業界③

 激甚災害が頻発して収益が悪化しているという理由だけで、大手損害保険会社同士が合併の道を選んだわけではありません。なぜ、これほど大規模な、しかももろもろの調整が難しい複雑な事情を抱えていながら、合併に踏み切らなければならなかったのか。

 今、損保業界は相次いで発覚した不祥事によって揺れ動いています。このことも少なからず影響しているということは否めません。

 不祥事を生んだ古い慣習を引きずるあしき体質から脱却すべく、業界全体で改善への取り組みが始まっています。

 これにより、賃貸不動産経営にも影響はあるのでしょうか。まずはこれらの不祥事を検証してみたいと思います。

大手損保と大型代理店で 相次いで発覚した不正行為

 2023年以降、損保業界において不正行為が相次いで発覚しました。「保険金不正請求問題」「保険料調整問題」、そして「顧客情報漏えい問題」です。これらの不祥事によって、1年余りの間に実に3回もの行政処分が、損保大手4社に下るという異常事態となりました。

 これらの不祥事には、ある共通の特徴があります。それがどんなものだったのか、改めて整理してみます。

●副業として保険販売を行う大型乗合代理店で発生している
 保険金不正請求問題では、金融庁の立ち入り調査が実施されました。調査対象は、自動車販売大手である旧ビッグモーターをはじめとした、いずれも複数の損保会社の自動車保険を取り扱う、大型の乗合代理店数社でした。

 保険料調整問題では、大企業の傘下に属する「企業代理店」と呼ばれる大型乗合代理店に、同様の立ち入り調査が実施されています。

本業を営みながら、副業として保険販売を行う乗合代理店


●損保会社からの出向社員を多く受け入れている
 副業として保険を販売する大型乗合代理店は、母体が大企業であるが故に、莫大ばくだいな保険料収入が見込める、損保会社にとってはいわば「ドル箱」代理店なのです。そのため出向社員を大量に送り込み、事実上の保険業務を担っていました。さらに営業収益拡大のために、損保各社が競って本業の支援までしていたのです。

●乗合代理店内で他社顧客情報が共有されていた
 乗合代理店は複数の損保会社の商品を取り扱いますが、顧客情報は同じ情報端末によって管理されていました。そのため、損保会社の出向社員が他社の情報を容易に持ち出すことができたのです。その結果、およそ250万件もの個人情報が漏えいするに至りました。

金融庁が問題視した 業界のあしき体質  

 このように、「副業」「大型」「乗合」という共通した業態の代理店で、数々の不祥事は起きています。これを問題視した金融庁は、有識者会議を立ち上げて、実態調査に乗り出しました。


 その結果、損保会社による副業大型乗合代理店への過剰な便宜供与が、数々の不正を生んだ背景にあると結論付けました。

ゆがんだ関係を解消するための 損保業界の取り組み

 過剰な便宜供与とは、保険会社が代理店の本業支援をすることだけを指しているわけではありません。本来なら代理店が自ら行うべき契約管理、顧客管理、事務処理、事故処理などを、損保会社からの出向社員らが事実上代行することが常態化していたことも、便宜供与とされています。

 一般の小規模な保険代理店は、収入保険料の取り扱い規模、増収率、新規契約獲得件数などの営業面での貢献のほかに、業務品質、コンプライアンス順守、早期契約更改率、キャッシュレス・ペーパーレス契約率、損害率など、さまざまな施策を高水準でクリアする必要があります。そしてこれらの達成度に応じてポイントが加算され、代理店手数料率が決定されます。

 それにもかかわらず、副業大型乗合代理店にはこの制度は適用されず、各社が競って特別に最高手数料率を与えていました。これも特別な便宜供与と見なされたのです。

 これから副業大型乗合代理店に求められるのは、保険会社に頼らない、自主独立した健全な代理店経営なのです。


【解説】
保険ヴィレッジ 代表取締役 斎藤慎治氏

1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。

(2025年 9月号掲載)

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