福岡|都市の記憶をとどめる建築を残す意義
吉原 勝己オーナー

福岡市が1987年に創設した「福岡市都市景観賞」は、まちの魅力をつくり出している建築や広告などを表彰してきました。しかし、229件の受賞作のうち、すでに20件が姿を消す事態になっています。3回も同賞を受賞した商業ビル「IMS(イムズ)」は2021年に閉館。市民に愛されたランドマークが次々に解体されていく現状は、建築が“消費されている”ことを示しています。
その背景には、都市の発展のスピードがあります。「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」などの再開発が次々に進行し、投資効率や最新性が追い求められているのです。しかし、長く使われ愛されてきた建築が時間をかけて育んだ「都市の文化」は、そのまちに欠かせない魅力の一つではないでしょうか。
建築を持続させる可能性はオーナーが握っています。そして、建物を“育てる”視点を持てば、都市の未来を変えることができます。丁寧な維持管理、市民やまちのための不動産活用など、経営上での工夫はたくさんあるでしょう。私が管理している物件にも同賞を授与されたものがありますが、見栄えと機能を競い合う時代から、記憶とつながりを育む建築へと転換すべき時期に来ているのではないかと考えています。
(2025年 10月号掲載)