<<誰かに教えたくなる名字のトリビア:関東地方に関する名字>>
今回は、関東地方の珍しい名字を紹介します。
「四月朔日」と「八月朔日」 それぞれ旧暦の習慣に由来
茨城県に特有の珍しい名字として、「圷(あくつ)」や「結解(けっけ)」「百目鬼(どうめき)」「四月朔日(わたぬき)」「八月朔日(ほづみ)」などがあります。「四月朔日」を「わたぬき」と読むのは、旧暦の4月1日ごろ(現在の5月中旬)になると暖かくなり、冬物の着物から「綿を抜く」ことからきています。「八月朔日」は、旧暦の8月1日ごろ(現在の9月中旬)に稲の穂を「摘む・積む」ことから「ほづみ」と読みます。
栃木県では「九石(さざらし)」や「倭文(しとり)」「癸生川(けぶかわ)」「大豆生田(おおまみゅうだ)」「四十八願(よいなら)」などがあります。「四十八願」を「よいなら」と読むのは、昔疫病がはやり多くの人々が亡くなったことが関係しています。そこで村人が死者の霊を鎮めるため仏教の教えである四十八の願掛けを行いました。人が亡くなると「黄泉原(よみがはら)」に行くとされていますが、その「よみがはら」が「よいなら」と変化し、「よいなら」に「四十八」の願掛けの文字を当てて「四十八願」となったようです。
群馬県では「毒島(ぶすじま)」や「都木(たかぎ)」「五十木(いかるぎ)」「太古前(たいこまえ)」「歩行田(かちだ)」などがあります。
「太古前」という名字は、その地域で一番古い家であったため、それがわかるように付けられた名字です。「奈良(なら)」や「鎌倉(かまくら)」も古い時代を表す名字ですが、「太古」より前なら、それより古い時代はありませんね。
埼玉県では「生明(あざみ)」や「舎利弗(とどろき)」「道祖土(さいど)」「忽滑谷(ぬかりや)」「御菩薩池(みぞろけ)」などがあります。
「御菩薩池」を「みぞろけ」と読ませるのは「深泥池(みどろいけ)」という池があり「みどろいけ」が「みぞろけ」と変化し、「深泥池」に「御菩薩池」の文字を当てました。「御菩薩」を当てたのは、深泥池に地蔵菩薩が現れたとの言い伝えがあったからと言われています。
千葉県では「狼(おおかみ)」や「畔蒜(あびる)」「野老(ところ)」「忍足(おしたり)」「月見里(やまなし)」などがあります。「月見里」を「やまなし」と読むのは、「月」が良く「見」える「里」には、月を遮る「山」が「無い」ことからだそうです。
東京都では「九(いちじく)」や「小作(こざく)」「私市(きさいち)」「乙訓(おとくに)」「大炊御門(おおいみかど)」などがあります。「九」は、一文字で「く」と読むことから「九(いちじく)」と読みます。
難読名字の「一寸木」 ほかの地域では別の読みも存在
神奈川県では「外郎(ういろう)」や「朏島(はいじま)」「権守(ごんのかみ)」「一寸木(ちょっき)」「梅干野(ほやの)」などがあります。「一寸木」の「一寸」は約3・3㎝と短い長さです。「ちょっとした長さ」の「木」で「一寸木」を「ちょっき」と読みます。「一寸木」を「ますき」と読む地域もあります。これは、武田氏が「城を増やせよ」と言ったことから「増城」で「ますき」になったものが変化したとも言われています。
名字研究家 髙信幸男

1956年茨城県大子町生まれ。
司法書士、名字研究家、日本家系図学会理事、茨城民俗学会会員、日本作家クラブ会員。高校1年生から名字の研究を始め、今年で52年目を迎える。現在、講演会やテレビ番組で名字の面白さを伝える活動を行っている。
(2025年10月号掲載)