<<Focus 〜 この人に聞く〜>>
40件の空き家・空き店舗を再生
人の流れが失われた商店街に新たな価値
JR名古屋駅から徒歩分ほどの場所にある「円頓寺商店街」。この商店街を含む那古野地区には1965年には770もの店舗があったが、2003年には177店舗にまで減少していた。この地の空き家・店舗を再生しているのがナゴノダナバンク(名古屋市)だ。年には222店舗にまで増加、現在円頓寺商店街やその界隈は人が集まる人気スポットとなり地価も上昇している。
ナゴノダナバンク(名古屋市)
市原正人共同代表

――これまでにどのような店舗に関わりましたか。
2010年から年3件のペースで空き店舗を再生、現在の再生実績は件ほどになりました。空き店舗の再生方法はケース・バイ・ケース。アドバイスだけ、購入して賃貸、オーナーから借り上げて店舗に転貸、オーナーと店舗が賃貸借契約を結ぶのをサポートなどから最適なものを選択しています。これまで飲食店をはじめ、ボルダリングジム、演芸場などを誘致してきました。

円頓寺商店街入り口
――当初、所有者はなかなか空き店舗を貸してくれなかったそうですね。
最初は商店街の空き店舗のデータベースをつくるところから始めようと思いました。しかし、うまくいかなかった。そもそも空き家活用を考えていなかった所有者は、条件などをすぐには答えられませんでした。また今、逆の立場で考えればわかりますが、急によそ者が来て「家賃はいくらですか」と聞いてきたら、ただ怪しいだけ。そのうちに私たちが訪ねても家主に会ってすらもらえないケースも出てきて、方針転換を余儀なくされました。
――どうやって空き家を「物件化」しましたか。
年に、ナゴノダナバンクが手掛ける第1号として出店した「galerie P+EN(ギャルリーペン)」が契機です。自分たちで空き物件を取得してリノベーションしました。経営者は私の妻、お店を出して私たちは商店街の内側の人間になったのです。身内として信頼を得つつ、所有者へのアプローチ方法を変えました。商店街のメンバーとして「この場所にこういう人がこんなお店を出したいと考えています。これだけの収益を上げられる見込みですが、家賃はこれくらいでいかがでしょう」と事業計画を持って行くようにしたら、所有者はイエスかノーで答えてくれるようになりました。

カブキカフェナゴヤ座には客が列を成す
――印象に残る再生事例は。
16年にオープンした「カブキカフェナゴヤ座」は、派手な舞台を楽しめる劇場カフェです。役者として、商店街に劇場を作りたいという若者が円頓寺商店街の喫茶店「なごのや」で働いていたのがきっかけになりました。その後、現在劇場カフェを経営する人と相談して企画をまとめ、空き物件の所有者とサブリースオーナー候補につないだのです。開業資金が少し足りず頓挫しそうになった時には、事業について現経営者の彼と深く話しましたね。「足りない分は俺があげようか」とまで言ったのもいい思い出。最初は劇場カフェの集客で悩んだ時期もありましたが、年間パスの導入といった工夫により、今では、すべての桟敷席が席満席になる勢いです。
- 「なごのやタマゴサンド」は昔から受け継がれる名品
- 店舗の案内図
――まちの風景も変わりました。
商店街を訪れる人が増えたことで、円頓寺商店街の地価もずいぶん上がりました。しかし、それは必ずしも手放しで喜べることではありません。本来、この場所の魅力は多様性です。江戸時代の土蔵、明治の町家の名残、昭和の街並み、そして今現在暮らしている人たち。さまざまな人が集っていたはずが、場所の価値が上がるにつけ、収益を上げられる高価格帯の飲食店しか入居できない事態になってしまうのです。飲食店ばかりになっては原風景が失われ、まちが画一化されてしまうのが問題だと考えます。もともとの建物の歴史をひも解いて類似の用途に活用するなど、まちの魅力を守っていきたいと思います。
空き家対策や古民家リノベーションといった不動産活用、イベントの企画・運営など、魅力ある“まち”を目指した取り組みを行う。円頓寺商店街がある名古屋市・那古野地区を拠点に、他地域でも活動中。
(2025年10月号掲載)