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「食べる」をコンセプトにリノベ
住人同士のコラボイベントでにぎわう
家族が生まれ育った建物を、建て替えるのではなくリノベーションで再生させた「ミカワヤビル」。「食べる」をコンセプトにした特徴ある専有部をつくったことで、価値観が同じ入居者が集まり、互いに協力してイベントを開催している。
髙須弘絵氏(左)、和田雄樹氏(東京都北区)

東京メトロ南北線王子神谷駅から徒歩9分。静かな住宅街を歩いていると4階建てのマンションのミカワヤビルが現れる。週末限定でポップアップストア向けに貸し出されている1階の店舗では、この日フラワーデザイナーによる「FLOWER&CAFE(フラワーアンドカフェ)」を開催。店内では緑に囲まれたスペースで親子連れがお茶を飲みながら、店主と会話を弾ませていた。

▲週末に行われたポップアップストアの風景
「築48年になるこの物件は2024年2月にリノベが完了しました。計画当初から1階を飲食店にすることは念頭にありました」と話すのは、髙須弘絵氏(東京都北区)。祖母より依頼を受け、およそ10年前から同物件の管理を行っている。
思い出を受け継ぐ場所 自己表現のできる物件に
髙須氏が夫の和田雄樹氏と共にリノベの計画を始めたのは21年のこと。当時はすべての階を住宅として貸し出していた。
「一度退去があると3カ月空室が続くこともありました。家賃を下げることも考えなければならない状況でした」(髙須氏)
建て替え案も出ていた。だが、かつて祖父母が「三河屋商店」を経営し、自分を含め親子3代が住んでいた思い出のある物件。取り壊すのは忍びないという思いからリノベを選択することにした。
費用対効果を考え、ハード面のバリューアップは最小限とする一方、自己表現をしながら暮らしの質を上げることができる物件を造っていこう。髙須氏と和田氏の中でリノベの方向性が決まった。母親が飲食店に挑戦したかったこともあり、1階は飲食店向けのテナント兼住居とすることを決めた。そして、ビル全体のリノベのコンセプトを「食べる賃貸住宅」とした。
- ▲屋上は第2のリビング。ここでも「食べられるハーブ」を植える
- ▲キッチンはすべて窓に近い位置に配置した
2~4階の住宅部分もすべてスケルトンでリノベを行った。キッチンのデザインは、コの字形で小料理屋風や細長いI字形など各戸で異なるが、すべてキッチンを間取りの中心に考えた。3~4階はそれぞれ2戸で30~35㎡程度。賃料は8万8000~11万5000円だ。2階のみ、ワンフロアに1戸でおよそ70㎡、17万円の家賃を設定した。
価値観の同じ住人が集う コラボがまちに人を呼ぶ
コンセプトを強く反映した間取りにしたのは、同じ価値観の人に入居してもらいたいと考えたからだ。
「入居者同士がビジネスや趣味でつながり、相乗効果を起こしてほしいと思いました」と2人は話す。すべての入居希望者には面談後に入居を決めてもらった。現在、ステンドグラス作家やデザイナー、社会活動家にパン屋開業を目指す会社員ら、バラエティーに富んだ人たちが入居する。
- ▲302号室の住人はデザイナー。住居兼工房として使いながら、月1回オープンハウスを実施 ▶キッチンのスタイルは各戸で異なる
入居者同士で企画するイベントもいくつか開催されている。デザイナーと1階のカフェのオーナーがコラボレーションした「だんなコーヒー」や、2階の入居者が開くステンドグラス教室の1周年記念イベントで4階の住人がパンを作って販売するなど、見込みどおりコラボレーションが起きている。それぞれの入居者の友人やファンが物件に集まることで、まちの雰囲気も変わってくると髙須氏と和田氏は考えている。
「この場所は3駅が利用できますが、ちょうど中間地。大きな開発があるわけでもなく、何も起こらないとどうしてもまちが停滞します。物件を使って新しい取り組みをすることでまちが活気づくと考えます」(和田氏)
(2025年10月号掲載)