<<専門家に聞く>>
資産を守り持続的な承継につなげる
心を一つにするファミリーガバナンス
オーナー企業や同族企業において、親族が共通の意識を持ちながら会社を運営していく仕組みを「ファミリーガバナンス」という。分割しにくい資産を抱える不動産オーナーにとっては、将来の争いを防ぎ、資産を守るうえで大きな意味を持つ。自身も祖父の代から不動産事業を継いでいる鳥飼総合法律事務所(東京都千代田区)の松野史郎弁護士は、こうした仕組みの必要性を強く訴える。
鳥飼総合法律事務所(東京都千代田区)
松野史郎弁護士

オーナー企業や同族企業において、親族が共通の意識を持ちながら会社を運営していく仕組みを「ファミリーガバナンス」という。分割しにくい資産を抱える不動産オーナーにとっては、将来の争いを防ぎ、資産を守るうえで大きな意味を持つ。自身も祖父の代から不動産事業を継いでいる鳥飼総合法律事務所(東京都千代田区)の松野史郎弁護士は、こうした仕組みの必要性を強く訴える。
松野弁護士がファミリーガバナンスの啓発活動に力を入れるようになった背景には、身近に起きた「争い」がある。自身の家業でもかつてグループ企業の一つが経営破綻し、それを契機に親族間であつれきが生じたのだ。
「争いが長引けば、資産を守ることすら難しくなります。不動産オーナーの場合、相続をきっかけに家族が分裂し、結果として資産が分散してしまう例も少なくないですね」と松野弁護士は話す。
相続を見据えた対策として遺言書を残す人は多い。だが松野弁護士は、遺言書はあくまでツールの一つに過ぎないと強調する。「内容に不満を持つ相続人がいれば嫡男以外の気持ちをくんでいないなどと反発を招き、結果として遺留分侵害額請求といった新たな争いを生むリスクが発生します。法的な備えにとどまらず、家族の心情に寄り添う仕組みが不可欠なのです」(松野弁護士)
具体的には「家」や事業に関する基本的な価値観及び理念、ミッションを「ファミリー憲章」として言語化し、家族全員で共有することが第一歩となる。さらに定期的にファミリー会議を開き、後継ぎだけでなくすべての家族が資産や事業に対して同じ認識を持つことが重要だ。「自分たちの存在が軽んじられていない」と感じられる環境があれば、後継ぎ以外のきょうだいも納得しやすくなる。
「経営者は誰もが、子や孫に幸せに事業を続けてもらいたいと願っています。そのためには法務や税務の専門知識だけでなく、家族の信頼をいかに得るかという視点も欠かせません」と松野弁護士は言う。
万一のトラブルに備えて法的拘束力を伴う「ファミリーガバナンス契約」を結ぶことも可能だ。ただし、最初から「契約」というテクニックに走るべきではないと松野弁護士はくぎを刺す。代々の経営者がどんな思いで事業を築いてきたのかを理解したうえでこそ、納得感のある契約が成立するのだ。
「ファミリーガバナンスとは、経営者一族の幸せと繁栄を世代を超えて持続させるための“設計図”です。その設計図を描くために欠かせないのが、家族の心に寄り添うアプローチなのです」(松野弁護士)
ファミリーガバナンスの肝
「法的対応」と「心情への配慮」は車の両輪
(2025年11月号掲載)