第11回 底地買取事業者との取引
【相 談】
私は地主で、たくさんの土地を貸しています。貸地の整理をしたいと考えていたところ、「底地を一括で買い取ります」というダイレクトメールが届きました。このような買取事業者に底地を一括売却することを検討したいのですが、どのような点に注意するといいでしょうか?
【回 答】
地主からこのような相談には、原則「底地買取事業者への一括売却はやめたほうがいい」とアドバイスしています。底地買取事業者へ売却する場合は、契約内容を慎重に確認することを勧めます。
買取額が約4分の1と安値
地主にとって貸地(底地)の一括売却は、煩わしい借地関係が整理できるものとして魅力的に映るでしょう。しかし、私があまり底地買取事業者への売却を勧めないのには、理由があります。
一つ目の理由は、高く売れないケースが多いからです。私の経験では、更地価格が1坪あたり100万円、底地権割合40%で1坪あたり40万円の価値がある底地の場合、底地買取事業者の買い取り価格は、せいぜい1坪あたり10万円(更地価格の10%・底地価格の4分の1)程度であることが通常です。
底地買取事業者は買い取り後に借地人と交渉し、底地を高値で売却したり、借地を買い取ったうえで底地と合わせて別の買主に売却したりして、換金します。しかし、借地人が底地の買い取りも、借地権の売却もしない場合には、底地買取事業者は、それまでの地主と同様に、安い地代で借地人に土地を貸し続けなければならなくなります。
特に、底地買取事業者が銀行から融資を受けて底地を買い取った場合は、借地人との交渉がまとまらないと収益を得られず、銀行への返済の負担が大きくなります。そのリスクから、買取事業者は地主から底地を高く買い取るわけにはいかないのです。

条件付き契約の場合がある
二つ目の理由は、底地買取事業者が「底地を一括で買い取ります」とうたいながら、条件を付けて代金を支払わない場合があるためです。
実際に地主が事業者と締結した契約書を精査したところ、「売買代金は借地を整理できた借地人分のみ支払う」となっていた事例がありました。要するに、底地買取事業者が借地人との間で底地の売却・借地権の買い取りに成功し、事業者に利益が生まれた時に初めて、地主に底地の代金が支払われるという契約内容になっていたのです。
この契約では、地主の持つ底地をすべて底地買取事業者が押さえることになります。地主は事業者が整理できない底地についても別の買い手に売ることができず、また売却以外の処分もできなくなってしまいます。

そして借地人と底地買取事業者の取引が成立するまで、地主はずっと決済(残代金)を待たされることになります。借地人との話がまとまらない底地は、解決まで長い時間がかかります。地主は残代金をもらえなければ土地の移転登記ができず、固定資産税・都市計画税は地主が払い続けることになります。
この契約では結局、地主は借地関係を一括整理できません。そのため私は、底地買取事業者に売りたいと希望する地主には「底地買取事業者から売買契約書のひな型を先にもらってください」とアドバイスしています。底地買取事業者が借地人との底地の売却・借地権の買い取りについて成功するか否かにかかわらず、残代金を支払って決済をしてくれるかどうかを確認するためです。
事業者への売却は慎重に
底地買取事業者と一括売却の交渉をする場合は、以下の点に注意してください。
①契約後2~3カ月後の決済日に、約束した代金(残代金)が無条件に一括で支払われる契約になっている(底地買取事業者との契約関係が長く続かない)
②底地買取事業者と借地人との交渉で底地・借地の売買が成立しない場合に、当該借地人の底地売買だけ一部解除できるような契約になっていない(このような一部解除条項があると、底地が歯抜け状態に残ってしまう)
③決済日に、底地買取事業者が移転登記と引き渡しを引き受け、地主が底地を一括で手放せる契約になっている
④底地買取事業者に契約どおりに決済する資力・信用がある
以上を踏まえると、私は、これまで説明してきたように借地権の買い取り・底地の売り渡し・共同売却・借地と底地の等価交換などで、地主自身が時間をかけて整理することをおすすめしています。祖先伝来の土地として受け継いだ資産です。時代やタイミングに合わせて有効活用してはいかがでしょうか。
地主からのこのような相談には、原則「底地買取事業者への一括売却はやめたほうがいい」とアドバイスしています。底地買取事業者へ売却する場合は、契約内容を慎重に確認することを勧めます。
弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)
代表弁護士 立川正雄

1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。
(2025年 11月号掲載)