<<【連載】眠っているお宝 目の付けどころ:vol.9>>
着物
昔は着物といえば質屋に預ける質物の代表的なものであり、「お宝」だった。昭和30年代ごろまでは、花嫁修業の一環として茶道や生け花をたしなむ女性が多く、着物で生活する人もいた。また嫁入り道具として娘に持たせる家庭も多かった。ところが、近年はライフスタイルの変化で着物の需要は激減し、市場の需給バランスが大きく崩れている。
「この10年で着物の市場は様変わりしました。第一に、大手買い取り店によって着物が必要以上に市場に出回ってしまいました。第二に、新型コロナウイルス下で結婚式やパーティーなどの着物を着る場が少なくなったことも値段が一気に下がった要因です」と語るのは、呉服店「呉服石井」と和装古物市場(オークション)の「向島呉服会」を運営する、向島石井(東京都墨田区)の石井将晴代表だ。
石井代表いわく、着物にはそもそも、値段が付きにくい要因がある。まず、サイズの問題だ。昔の人は小柄なため、現代女性で身長160㎝以上ある人は、そのままでは着られないことが多い。昔なら裄直しもできたが、最近は和裁士が減ってしまい、仕立て代と変わらない費用がかかるようになってしまった。また絹は天然素材であるため、経年で色あせたり、カビや染みが付いたりすることが多く、高級な着物でも古いものは着られないのだ。

▲昭和初期のものと思われるアンティーク着物。現代では再現困難な素材や染色方法を使用しているものも多い
高値が付くものも中にはある
着物市場の悲観的な状況を述べてしまったが、値が付く着物もある。一つ目は希少で芸術的な価値が高いもの、二つ目は外国人に需要があるもの、三つ目はアンティーク着物だ。
この10年以内に仕立てたものやブランドもの、著名作家や一部の人間国宝(重要無形文化財保持者)、または公益社団法人日本工芸会(東京都台東区)に属しているような作家の作品であれば高値が付く。また「相良刺しゅう」や「明綴れ」などの中国由来の技法による刺しゅうが施された着物は、市場に参加する中国人バイヤーに人気があるという。さらに江戸時代から第2次世界大戦前にかけて作られたアンティーク着物は、コレクターがいて専門の店もあるので、状態とデザインが良ければ買い取ってもらえる。
「最近では、江戸時代のアンティーク着物を数万円で買い取りました。良い着物が手元にあるなら、買い取りをしている呉服専門店に連絡してみるといいでしょう。作家の名前や特徴を伝えてもらえたら、電話だけでも掘り出し物なのかどうかはだいたいわかります」(石井代表)
向島石井(東京都墨田区)
石井将晴代表

新品・中古の着物を扱う呉服店の2代目。33年の鑑定歴を持ち、市場主としても膨大な数の呉服の査定を行っている。
■店舗情報

東京・向島で50年以上の歴史がある呉服石井。古物市場「向島呉服会」の開催もしている。
(2025年 11月号掲載)