<<心をくすぐるガレージ賃貸>>
個性あふれるガレージ賃貸は人気を高めている。一方で、なかなか客付けができず悩むオーナーも。ガレージ賃貸というだけで人が入るわけではく、それぞれの個性や使い勝手が重要だ。今回、4人のオーナーのガレージ賃貸の事例を紹介する。
最大で4台駐車可能なガレージ賃貸 ロフト付き居室で快適性も確保し満室
農家に嫁ぎ、婚家の土地の有効活用をしている村田佳子オーナー(栃木県宇都宮市)。ここにしかないと思ってもらえる物件づくりにこだわっている。
2024年5月、宇都宮市の北西部に所有する農地のうち999㎡を地盤改良し建てたのがガレージ賃貸「recreo(レクリオ)」だ。木造2階建ての6戸すべてが、1階に広いガレージ、2階に居住スペースという造りで、専有面積は約100㎡となっている。
村田佳子オーナー(栃木県宇都宮市)
車好きに喜んでもらえるように、ガレージは2台駐車可能にした。シャッターの高さは車高の高い車も入れられる2015mm。さらに建物の外にも1戸につき2台の駐車場があるため、1戸あたり合計4台まで止めることができる。
「市内にもガレージ賃貸はありますが、複数台駐車可能とすることで差別化を図りました。入居者の友人が車でガレージを見に集まっても大丈夫です」と村田オーナーは胸を張る。

▲車用品はもちろん、キャンプやスポーツの道具も収納可能
ガレージ内には電気自動車(EV)が充電できる200ボルトの電源や、手洗い場、電動シャッターを備えた。大型の換気扇を付けてあり、排気がこもることもない。なおガレージ部分はDIYも可能となっている。「車に関する道具を自由に飾るなどして楽しんでほしい」と村田オーナーはほほ笑む。
2階の居室はロフトのある1SLDK。ロフトに上る階段の脇に設けた小窓から愛車を眺めることができる。ペット可としたり浴室ガス乾燥機を備えたりと、暮らしの快適さにもこだわった。
村田オーナーが、ガレージ賃貸にした決め手は立地だった。recreoが立つ場所は駅からは遠いが、宇都宮環状道路には近い。東北自動車道に新設される(仮称)大谷スマートインターチェンジまでは車で5分ほどと、車好きにはまたとない立地なのだ。また大谷町は近年、観光で盛り上がりを見せている。同町は「大谷石」という建物の材料にもなる石の採石で有名だが、宇都宮市の中心部から車で20分ほど離れており、居住地区としてはこれまで注目されてこなかった。それが、大谷石の観光資源化により、レジャー施設や有名なカフェに集まる人が増えているのだという。
もともと家で所有していた土地を活用したこともあり、利回りは新築ながら7%を超える。
全6戸は、住居としての入居が3戸、出張時の拠点としての入居が2戸、放課後デイサービスが1戸とさまざまな用途で満室となっている。

▲2階には落ち着いた雰囲気の居室が広がる
事務所利用を念頭に置いた専有部 狙い通りの法人契約につなげる
仙台市に23棟289戸の賃貸住宅を所有する菅原貴博オーナー(仙台市)が、8棟目の新築物件のプランとして選んだのがガレージ賃貸だった。
菅原貴博オーナー(仙台市)
仙台市泉区泉ヶ丘の254㎡の土地を1600万円で購入し、当初1LDK・6戸の賃貸物件を計画した。だが建ぺい率・容積率の関係で5戸しか入らないことがわかった。さらに周辺にはすでに新築1LDK物件が数多く竣工していたことから、差別化を図って3戸のガレージ賃貸にかじを切った。周辺の1LDKの相場が6万円、6戸造れば月の家賃収入は36万円の家賃となる。だが5戸しか造れないのであれば、たとえ3戸であってもガレージ賃貸のほうが賃料収入は高くなるだろうと考えた。
一方で「ガレージに止めるような高級車を所有する人が賃貸住宅を借りるのかと疑問を持っていた」という菅原オーナー。倉庫や事務所利用として借りる人をターゲットにプランを組み立てることにした。
まずは住戸部分を工夫した。ロフトを作り事務所の仮眠スペースとして利用できる間取りにした。浴室と洗面脱衣所はLDKから離し、外部から人が出入りする際もプライベートとパブリックの線引きを行った。
キッチンカウンターは通常より高い1mのものをしつらえた。「事務所として使うことを考え、デスクを置いたときに人が動きやすいように配慮しました」(菅原オーナー)
- ▲事務所として利用しやすい動線
- ▲車にこだわる家主仲間のアドバイスを生かした
そして、ガレージ自体の高さと広さにもこだわった。ルーフキャリア付きのトヨタ自動車のワンボックス車「ハイエース」でも問題なく駐車できる高さを確保した。「内装は後から変えられますが、構造や間取りは変更できません。プランをしっかり具現化することが新築を手がける意味だと思っています」と菅原オーナーは話す。
5月末の竣工から2カ月で3戸すべてで入居が決まった。そのうち2戸は菅原オーナーの狙ったとおり、法人契約の事務所利用だった。
家賃の設定も早期に入居者が獲得できた一因だったと考える。
「仙台市のガレージの家賃相場は13~16万円ですが、1LDKの新築と駐車場の周辺相場である11万円台で募集したことで、狙い通りの層が入りやすかったのだと思います」(菅原オーナー)
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三角形の変形地を有効利用 ダイニングから愛車を眺める住宅
岐阜県・愛知県を中心に賃貸経営を展開する松永広幸オーナー(岐阜県瑞穂市)は、夫婦で協力しながら家主業を営む。9月末時点でアパート・戸建て計32戸と、14台分のガレージを保有し、年間賃料収入は約2000万円に達する。
その歴史は2012年、アパート購入から始まった。妻の実家が100戸以上を自主管理する家主で、賃貸経営は身近な存在だったため自然な流れだったという。
松永広幸オーナー(岐阜県瑞穂市)
22年には、車の趣味もありガレージ投資も始めた。すると、屋外駐車場では月3000円だった土地が、ガレージにしたところ月1万円以上で貸せることを経験。さらに、「車を置くために、きれいなガレージの近くにある築古アパートをわざわざ借りて住む人がいました」と松永オーナーは話す。
自身の住環境よりも車の駐車環境を優先する人は一定数存在するということに気付き、ガレージ付き賃貸住宅の可能性を確信したという。そこで、翌23年からプランを練り、24年2月に岐阜県大垣市に竣工したのがガレージ付き賃貸「カルロ」だ。
- ▲三角形の変形地を有効活用して建てられたカルロ
- ▲ダイニングにはガレージ内を眺める窓を設置した
自ら図面を引き、地元工務店に依頼した。コンセプトは「愛車と共に暮らす家」。「愛車を眺めながら飲むお酒って良くないですか?(笑)」と松永オーナーが話すように、愛車をただ止めるだけでなく、愛でることを重要視した。
そのため、1DKの間取りながら、ガレージを見下ろせる中2階のダイニングキッチンを設けていることが特徴だ。愛車を見下ろす角度を意識して窓を低めに設置し、車を眺めながら過ごす空間を実現した。
設備面では電動シャッターはもちろん、電気自動車(EV)ユーザー向けの充電用コンセントを用意。さらにマニア層が使用するプロ向けの工具にも対応できる三相200ボルト回路も設置した。
このカルロは1戸あたり月9万3000円で貸しており、全2戸のため年間賃料収入は約223万円になる。三角形の変形地で土地を安く購入できたこともあり、利回りは新築ながら土地購入費込みで8%超を達成した。
ガレージ賃貸はこれからも伸びていくと松岡オーナーは感じており、今後も拡大していきたいという。
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1階 2階
大型ガレージを利用した住宅 特許取得済みの新しい賃貸
茨城県を中心に千葉県、埼玉県などで住宅の設計・建築を手掛けるエダカワ(茨城県土浦市)は、2024年に「鉄庫の家」で特許を取得した。既存の大型ガレージを使用し、内部に1LDKあるいは2DKの木造戸建て住居を建造する平屋住宅で、法的には軽量鉄骨造の扱いとなる。
枝川良昌社長(茨城県土浦市)
エダカワでは、1984年の創業から工務店として注文住宅やリフォームの施工を手がけてきた。枝川良昌社長の就任以来、事業の多角化と他社との差別化を目指して、戸建てやガレージ付きなどの特徴を有する賃貸住宅の施工を手がけるようになった。自社でも賃貸住宅を所有し、施工から管理まで一貫して行っている。
こうした取り組みの中で、賃貸用の新しい形の住宅として生み出したのが鉄庫の家だ。
2023年に最初の一棟を土浦市内で竣工。翌24年には1LDK、2DKの2棟を同時に竣工し、1棟目よりもさらに施工の効率性、気密性、機能性を向上させた。住戸部分と車庫部分のどちらもシャッターを下ろして施錠することができる利便性もあり、24年の2棟は引き渡しと同時に入居が決まった。
枝川社長は「見た目は無骨ですが、高い防犯性やコンパクトな内装が気に入って入居する人が多いようです。女性にはなかなか訴求しにくいものの、秘密基地のような雰囲気もあり男性からは好評です」と話す。
シャッターを下ろすと物置然とした外観になるが、木造住宅そのものは大きな窓を有しており、使い方次第では外光を十分に取り入れることができる。

▲外壁は大型の既製ガレージを利用している
既存のガレージを外壁として利用するため工期が短いのも特徴で、着工から3カ月程度で完成させることができる。利回りも8・3%と高く、賃貸住宅としての収益性が高い。
現在の設計ではガレージ全体の3分の1を車庫、残りを居住スペースとしているが、要望次第では全体を居住用にすることも可能だという。
「ガレージの形は変えられないので平屋建てのみではありますが、間取りはある程度変更可能です。建築費が高騰する中、一つの新しい選択肢となる商品だと思っています」(枝川社長)
- ▲シャッターを上げると日当たりを確保できる
(2025年12月号掲載)






