【連載】地主を悩ませる 借地・底地の整理法:最終回

土地活用底地・借地

最終回 借地整理に向けての地主側の準備

【相 談】
 私は地主で、貸地の整理をしたいと考えています。このたび借地人が亡くなり、その長男から「借地は私が相続するので、私の名前で土地賃貸借契約書を作り替えてほしい」と連絡がありました。借地人の妻は先に亡くなっており、3人の子ども (長男・次男・三男)がいます。今後、この長男と借地の買い取り・等価交換・共同売却などの交渉をして問題ないでしょうか?

【回 答】
 借地人が亡くなり、その相続人と借地の買い取り・等価交換・共同売却などを行う場合、その人が法律上、借地権や借地上の建物を本当に全部相続しているかが問題になります。誰が借地権を相続したのか、地主も関与して相続人を確定させることが必要です。

 

相続人が誰かを確定させる

 この相談のように、借地人が亡くなり、その長男から「借地は私が相続する」と言われただけで、安易に土地賃貸借契約書を書き換えてはいけません。

 もし死亡した借地人が「借地権と借地上の建物はすべて長男に相続させる」との遺言書を残しているのなら、問題はありません。また借地人が亡くなった後、全相続人が遺産分割協議で「借地権と借地上の建物はすべて長男に相続させる」と合意した場合も同様です。

 問題なのは、遺言書も遺産分割協議書もないのに、長男からの申し出だけを受けて、地主が土地賃貸借契約書の書き換えに応じてしまうことです。その後、借地権の買い取り・等価交換・共同売却の契約までしてしまうと、より大きなトラブルにつながります。

 遺言書がなく、遺産分割協議もまとまっていないのに、長男だけを単独相続人として土地賃貸借契約書を書き換えた場合は、書き換えた契約書は無効になります。実際に、長男だけを相続人として契約書を書き換えたものの、実は借地権が長男・次男・三男に共同相続されていて、次男・三男から長男と地主に対して「借地権は長男・次男・三男の3人の共有にあることを確認せよ」という訴訟を起こされたという例もあります。

 従って、長男から「自分一人が相続した」という申し出を受けた場合は、地主は「あなた(長男)が単独で相続したという証拠に、遺言書か遺産分割協議書を提出してください」と依頼しなければなりません。単独で相続したという証拠が提出されない限り、長男だけを借地人と扱うことはできません。

借地権の協議書が必要

 遺言書もしくは遺産分割協議書と戸籍謄本などが提出されない場合には、地主は全相続人を借地人として扱わなければなりません。

 死亡した借地人の長男からは、よく「遺産分割協議書を作成して、借地上の建物は自分単独の名義で相続した。借地も自分単独で相続したことを認めてほしい」と言われます。しかし、借地上の建物が長男名義で相続登記されても、それは長男が単独で借地権を相続したという証明としては不十分です。借地自体について遺産分割協議書が作成されていないことがあるからです。

 司法書士に相続登記の依頼をしていても、建物登記に関する遺産分割協議書しか作成していない例を多く見かけます。しかし、多くの場合、建物よりも借地権のほうが価値が高いのです。後になって、ほかの相続人から
「建物は価値がないから長男の単独相続で承諾したが、借地権は相続権を主張したい」と言われると、トラブルになってしまいます。借地上の建物のみの遺産分割協議書しかないならば、「念のため借地権についての遺産分割協議書も作成し提出してほしい」と要請すべきです。

底地の売却は問題ない

 借地人の相続時にきちんと処理をしないまま、その後に相続人の一人だけと借地の買い取り・等価交換・共同売却の契約をしてしまうと、後でほかの相続人から権利主張をされ、トラブルになるリスクがあります。

 特に共同売却では、買主は「完全な所有権」を取得できません。そのため訴訟に発展する可能性があります。

 なお底地を相続人の一人だけに売却するのであれば、特にトラブルには巻き込まれません。地主は底地を第三者に売ることも自由です。仮に長男だけに売却しても、次男・三男は異議の申し立てができないからです。

 また借地を長男・次男・三男の共同相続として扱わざるを得ない状況でも、長男に地代全額を請求し、支払ってもらうことができます。不可分である1件の借地契約から発生する地代も不可分とされ、長男は地主に対して地代全額の支払い義務を負うからです。もちろん、長男に限らず3人全員が全額の支払い義務を負い、いずれかが地代全額を払えば、ほかの兄弟の支払い義務は消滅します。

 今回で本連載は最終回となります。この連載を通して底地の整理方法をご理解いただくとともに、地主の皆さんの資産管理のお役に立てることを願っています。


弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)

代表弁護士 立川正雄

1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。
(2025年 12月号掲載)

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