【特集】需要拡大する防音賃貸

賃貸経営住宅設備・建材

<<楽器演奏から動画配信まで 需要拡大する防音賃貸>>

防音賃貸住宅の建築会社が供給した物件の入居率が高い。防音技術や建築費の高さなどにより、供給数の少なさが最大の要因ではあるものの、一方で賃貸住宅に防音性能を求める入居者が確実に増えている。楽器演奏を趣味とする人から、大音量で音楽を聴いたり、映画を見たりする人や、動画配信者、そしてオンラインゲームが趣味の人までに裾野が広がっているのだ。今回は防音賃貸の実態について、賃貸仲介事業者と、防音賃貸住宅を供給する建築会社に話を聞いた。

この記事の目次

防音賃貸の建築会社に聞く市場性
┗入居待ちは1万件超え -リブラン
┗建築費を抑えたプランを提案 -越野建設
┗独自の特許技術で高性能実現
賃貸仲介会社に聞いた入居者ニーズ
┗年収約700万円の入居者中心 -万事屋本舗
┗設立2年で年間500件仲介 -オリエン

 

防音賃貸の建築会社に聞く市場性

入居待ちは1万件超え 楽器演奏者から動画配信者へ拡大

リブラン(東京都板橋区)
山下大輔 ミュージション事業部長

 防音マンションの「MUSISION(ミュージション)」シリーズを展開するリブラン(東京都板橋区)は、これまで賃貸住宅37棟732戸、分譲マンション1棟67戸を供給してきた。賃貸住宅の入居率は2025年度上期平均で99・5%あり、高い水準だ。

 入居待ちの登録者数については、アクティブな入居待ちユーザーリストが9月に1万件を突破し、1万1480件(10月3日時点)ある。同社の防音物件に入居を希望する人が年々増加する中、属性については近年、変化が見られるという。「10年ほど前までは楽器演奏者がほぼ100%でしたが、3〜4年前からゲーム動画配信やVチューバーなどの配信者が増加しています」と同社のミュージション事業部山下大輔部長は説明する。つまり、防音物件を必要とする層が広がっている。

 その変化を受けて、同社では22年から3年連続で、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(東京都新宿区)が主催するコンピューターゲームの総合展示会「東京ゲームショウ」に出展した。「ミュージションPlus(プラス)」というシリーズを新しく23年に打ち出し、同展示会では「ゲーミングマンション」(同社商標)と掲げて出展したところ、Xのトレンドになり、注目を集めた。

▲グランドピアノが置ける部屋

 MUSISIONの家賃については、同じエリアの築5年程度の同等物件と比較して平均で約3割高く設定することができており、場所によっては4割高い物件もある。また築年数の経過による家賃下落の影響が一般物件より少なく、駅から遠い、例えば徒歩20分以上かかる物件でも高い入居率を維持できる点が強み。入居期間も一般的な賃貸物件に比べてMUSISIONは長期となっている。

 なぜ、家賃が高いにもかかわらず、入居率が高いのか。その理由は、主に三つ。まず、信頼できる防音性能だ。同社では完成後に第三者機関に依頼し、防音性能の数値を各戸で計測。数値を明示することで、入居者は安心して楽器演奏や配信活動をする環境を得られる。次に音楽経験者によるリーシングだ。音の知識があり、防音を求める人の気持ちを知っていることから安心して契約してもらえるという。
そして、最後に管理体制。管理担当者にも元音楽関係者がおり、契約前にどのような目的で住むのかどのような楽器を演奏するのかなどをあらかじめヒアリングすることで、入居後のトラブルを抑止している。

 「人口減少の中でも『家に対するわがまま』が増えており、防音性能を求める層は拡大していくでしょう」(山下部長)

 オーナー層については、音楽好きな人や長期的な安定経営を求める地主が多く、複数物件を所有するオーナーも存在する。建築費は一般的なRC造の物件と比べて1割〜2割高くなるものの、長期的な安定性から投資対象として選ばれている。

 

自社施工の強み生かし 建築費を抑えたプランを提案

越野建設(東京都北区)
吉井政勝 取締役・企画開発部長

 1912年創業の地場ゼネコン、越野建設(東京都北区)は、これまで楽器演奏が可能な賃貸住宅「音楽マンション」を56棟1050戸(10月9日時点)供給してきた。現在進行しているプロジェクトも含めると、68棟で戸数は1250戸を超える。エリアは東京23区、埼玉県、神奈川県、千葉県などの1都3県。10月7日時点の入居率は99・71%。最も古い音楽マンションでは、当初10年間の統計データで年間平均入居率が99・15%という高い数字を実現。入居待ちのメール会員も全物件合わせると1200人ほどいる。そのため、入居者から退去の通知が来ても、退去前に次の入居者が決まることは珍しくないという。

 「入居率の高さはオーナー様からの信頼獲得につながっており、リピート受注もあります。その中には4棟建てていただいた人もいるほどです」と同社の吉井政勝取締役・企画開発部長は話す。

 音楽マンションが選ばれる理由は、楽器を演奏できる物件としての付加価値分が趣味の範囲内で払える家賃であることだという。「当社の音楽マンションの入居者は社会人が80%ほどを占めます。プロもいますが音楽を趣味とする人が多いです。趣味の範囲で、一般物件よりもどのくらいプラスして家賃を払えるかが重要になります。その点を考えて、家賃は場所にもよりますが、大体相場家賃に1万から1万2000円前後高い金額に設定しています」(吉井取締役)

 防音物件には24時間演奏可能な物件が少なくないが、同社の音楽マンションでは、午後11時~午前8時までは演奏不可としている物件がほとんど。その理由は、ターゲットとなる日中働いている社会人からは、夜中に演奏したいというニーズが少なく、むしろ夜の睡眠時には静かさを求められるからだ。入居する前の情報としても、それが入居者の安心につながるという。

 では、なぜ1万円ほどの家賃アップだけで収支が合うのか。その点が最も重要なポイントとなるが、同社では防音物件仕様の建築費を一般物件仕様の1割増程度に抑えることができる(同社比)ため、収支が合うのだという。同社は100年以上も続く建設会社として、鉄筋コンクリート造にこだわって建ててきた技術力が武器である。自社施工で30人もの技術者がいるからこそ、プランニングをしながら収支が合う施工方法を考え、提案する。

▲コストアップを抑えて建築

 「当社では利回りを提示して建築提案をすることはありません。ローン返済後の手残りを重視して収支計画表を提示します。場合によっては税引き後収支を出します。そのため、オーナー様も安心して建築することができるのです」(吉井取締役)

 さらに、近年の家賃相場上昇もあり、25年に40戸の更新時期を迎えた築4年の音楽マンションでは、賃料を2000~3000円上げても40戸の入居者が契約を更新。オーナーは年間100万円ほどの家賃収入の増加につなげることができた。同社ではこれも音楽マンションに住む高い満足度から「ほかへ引っ越す理由が見つからない」という結果につながっていると分析する。

 「適切な遮音性能を持つ賃貸住宅の需要は今後も続くでしょう」(吉井取締役)

 

独自の特許技術で高性能の防音・防振・音響実現

ツナガルデザイン(東京都目黒区)
大塚五郎右エ門 社長

 2011年から独自の特許技術により音楽スタジオを超える防音賃貸マンションを展開するのは、ツナガルデザイン(東京都目黒区)だ。同社が供給する「サウンドプルーフ」シリーズは、これまでに24棟306戸を開発してきた。そのうち275戸を管理受託しており、管理物件の入居率は98・8%(9月30日時点)だ。

 サウンドプルーフは防音・防振を重視し、コンサートホールと同じ多重防音構造を採用。「サウンドプルーフ プロ」は防音が難しいといわれるドラム演奏も対応可能な構造だ。また防振性能が高いため、楽器演奏者だけでなく、振動を発する本格的なインドアトレーニングやフィットネス、ダンスも行うことができる。

 さらに近年は防音・防振に加えて音響設計も取り入れた「サウンドプルーフ ステージ」を供給している。12月に竣工予定の東京都世田谷区にある「サウンドプルーフ ステージ桜新町」は、ドラムなどの歯切れのいい音が求められる残響時間が短い楽器向けの音響設計になっている。一方、26年に世田谷区の東急電鉄田園都市線駒沢大学駅から徒歩6分の場所に建設予定の物件は、ピアノやバイオリンなどの適度な響きを必要とする残響時間が長い楽器向けに設計。同社では楽器の種類によって求められる音響特性を反映した設計に重点を置く。

▲ダンサーにはうれしい壁一面のミラー付き防音室

 こうした音にこだわりがある人向けのため、東京23区内を対象に開発しており、賃料設定についても周辺相場より高く設定できる。例えば、「サウンドプルーフ ステージ桜新町」では、1㎡あたり7300円、坪単価で2万円を超える家賃を想定。「これは、入居者が外部のレンタルスタジオを借りる費用、例えば、都内では週2回、1回2時間の利用で月5万円程度かかることを考慮すると、競争力のある価格設定なのです」と大塚五郎右エ門社長は話す。

 物件の最小面積は25㎡だが、基本的には1LDKタイプの間取りを採用している。これは1㎡あたりの家賃を上げやすいため。また、間口が狭く奥行きのあるウナギの寝床型の間取りは、玄関側の部屋に日が当たらず通常は好まれないが、防音物件は逆だという。窓側にベッドルーム、引き戸を挟んで中央にリビング・ダイニングルーム、廊下側に水回りを配置すれば、水回りスペース側の扉一つの開閉だけで防音ルームとして使用することが可能となる。30㎡の部屋だと約10畳の広いスタジオとして活用できるメリットがある。

 現在はデベロッパーとしての事業が中心だが、今後はパテントライセンス事業の比重を高めて、ほかの企業とのコラボレーションも強化していく予定だ。

 

賃貸仲介会社に聞いた入居者ニーズ

ゲーム動画視聴者の入居希望が増加

年収約700万円の入居者中心

万事屋本舖(東京都中央区)
髙木貴徳 社長

 万事屋本舗(東京都中央区)は、防音マンションの賃貸仲介と管理に注力している不動産会社だ。管理物件全600戸のうち防音物件は320戸ほどある。

 同社では「防音マンション」を「遮音等級がDr-65以上で24時間演奏ができる」物件と定義して、入居者募集を行っている。「防音マンションの需要は高いです。当社管理物件の入居率も96%に達しています」と同社の髙木貴徳社長は話す。
管理する防音マンションの入居者は、個人事業主やDTM(デスクトップミュージック)制作者、配信者などが多く、平均年収は約1000万円、中央値は700万から800万円。入居人数は平均1・16人で、ほとんどが単身者だ。

 髙木社長は「防音マンションの市場は、今後しばらくは縮小することがないと考えています。特に都心部以外の地域、とりわけ埼玉県川口市、千葉県松戸市などでの需要が高まっています。そのエリアでは20㎡程度の小さめの物件でも十分な需要があります」と話す。

 防音物件の内見が入ったときは、スーツケース大のスピーカーを持ち込み現地で流して試す。どこまで音が漏れるのかを確認することで、希望物件の防音性能を理解してもらい、入居後のトラブル防止を狙う。

 髙木社長の会社は、防音マンションの仲介だけでなく、デベロッパーへのコンサルティングも行っており、今後も多くの会社と協力して防音マンションの開発を進める。

 

設立2年で年間500件仲介

オリエン(東京都新宿区)
石山 潤 社長

 

 「ぶいちゅ~ば~の部屋」という名前の配信者特化賃貸サイトを活用して賃貸仲介しているのは、aLLLien(オリエン:東京都新宿区)だ。2023年10月に会社を設立したばかりだが、2年目で年間500件ほど動画配信者やその動画視聴者向けに賃貸仲介する。驚くのは、一般の不動産情報ポータルサイトには一切広告を掲載せずに仲介していることだ。動画配信を行うインフルエンサーが、同社のサイトを自身の配信番組内で紹介してくれることは大きな後押しになっているという。

 LINE登録は2万8000人ほどいる。希望物件については、来店後にスタッフがヒアリングして決めるため、来店成約率は8割にもおよぶ。

 「ゲームの動画配信を視聴している人は自身もゲーム好きなのです。ゲームをする人は音も気にしており、実は配信者とニーズが似ています」と同社の石山潤社長は話す。

 こうしたゲーム好きの部屋探しでポイントとなるのは、防音と併わせて、高速インターネットの環境を整えていることだという。オンラインゲームはインターネットの速度が遅いと中断せざるを得なくなるからだ。

 ゲーム好きの需要も捉えることで防音賃貸住宅の入居者ターゲットのは裾野は広くなるだろう。

(2025年12月号掲載)

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