<<誰かに教えたくなる名字のトリビア:関西地方に関する名字>>
今回は、関西地方の珍しい名字を紹介します。
滋賀県には「几(おしまづき)」や「心山(むねやま)」「浮気(うき・ふけ)」「鎌足(かまたり)」「野一色(のいっしき)」などの名字があります。浮気という名字は、地名から生まれました。現在の滋賀県守山市浮気町の地名です。「浮気」とは、湿気の多いじめじめした土地を指します。
京都府では「審(あきら)」や「平和(ひらわ)」「一口(いもあらい)」「二十一(にそいち)」「鶏冠井(かえで・かいで)」などがあります。「一口」という名字は、地形から生まれました。人がたくさん集まり混み合った状態を「芋洗い」のようだといいます。いくつかの川が合流し、出口が一つしかなくて混み合う状態の村に一口の地名が付けられ、やがてその地名が名字になったと考えられます。鶏冠井も地名から生まれました。京都府向日市鶏冠井町の地名です。「鶏冠井」をかえで・かいでと読ませるのは、鶏の鶏冠とさかは、楓かえでの葉が赤く色づいた状態と似ているからです。
天皇から賜った名字
大阪府では「鼻毛(はなげ)」や「東京(とうきょう)」「王隠堂(おういんどう)」「不死川(しなずがわ)」「右衛門佐(よもさ)」などがあります。東京という名字は、もとは「江戸(えど)」という名字だったそうです。江戸の町が明治時代に東京に変わったことから、名字も江戸から東京に変えたと言われています。王隠堂は、後醍醐天皇が名付けた名字です。南北朝時代、後醍醐天皇が奈良県吉野地方に逃れた時に建物の中にかくまってあげた先祖が、お礼に王隠堂の名字を賜ったと伝えられています。
奈良県では「霊(みたま)」や「農業(のうぎょう)」「台所(だいどころ)」「蚊帳(かや)」「裏隠居(うらいんきょ)」などがあります。霊は、寺の住職が名乗った名字です。霊の文字を使ったのは、住職という職業が故人の霊を守るためと考えられ、読みは「れい」ではなく「みたま」にしました。
動物の名前が含まれる名字
和歌山県では「仏(ほとけ)」や「蝉(せみ)」「団栗(どんぐり)」「勢見月(せみづき)」「小鳥遊(たかなし)」などがあります。勢見月という名字は、クジラから生まれました。和歌山県太地町は昔から捕鯨の町として有名です。太地町で捕れるセミクジラを、モリで突いて捕獲したことから「セミヅキ」となり、「勢見月」という名字になったと考えられます。小鳥遊という名字は、「高梨(たかなし)」から生まれました。もともと高梨という名字だった人が、明治時代になり名字を役所に届ける際に、「高梨」のままではつまらないと考え「小鳥遊」として届けたそうです。「たかなし」に小鳥遊の文字を当てたのは、猛もう禽きん類のタカがいなければ、「小鳥」は安心して飛ぶ(遊ぶ)ことができるからだそうです。
兵庫県では、「住所(じゅうしょ)」や「名無(ななし)」「栗花落(つゆり)」「弘原海(わだつみ)」「十七夜月(かのう)」などがあります。十七夜月を「かのう」と読むのは、十五夜の晩に月に願い事をすると、二日後に願いが「叶かなう」と言われているからです。
名字研究家 髙信幸男

1956年茨城県大子町生まれ。
司法書士、名字研究家、日本家系図学会理事、茨城民俗学会会員、日本作家クラブ会員。高校1年生から名字の研究を始め、今年で52年目を迎える。現在、講演会やテレビ番組で名字の面白さを伝える活動を行っている。
(2025年12月号掲載)






