【連載】不動産に強い士業が教える14の知見:最終回

法律・トラブル不動産関連制度

不動産会社と不動産に詳しい士業などの専門家を擁する一般社団法人不動産ビジネス専門家協会(東京都千代田区)。所属する14人の士業に知っておくべき情報を聞く。

最終回 国の補助金・助成金を賢く活用する

 賃貸経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。建材価格や人件費の上昇、エネルギーコストの負担増に加え、空室対策や入居者ニーズへの対応も求められています。

 こうした中で注目すべきは、国が実施する補助金・助成金制度です。返済不要のため、活用次第で、経営を安定させつつ物件価値を高めることができます。賃貸物件に使える制度と注意点について解説します。

省エネ性能向上に関する 主要な補助金3選

 補助金・助成金制度の中で代表的なものの一つが、省エネルギー性能向上に関する補助金です。そのうち主要なものを三つ紹介します。

 一つ目は、環境省が進める「既存住宅の断熱リフォーム支援事業」です。窓・玄関ドアの交換や断熱材の導入といった工事に対し、集合住宅では1戸あたり15万円(玄関ドアも改修する場合は20万円)を上限に補助が行われています。補助率は対象経費の3分の1以内です。

 二つ目は、環境省の「先進的窓リノベ事業」です。窓・玄関ドアの断熱改修を通じて省エネ化を進める住宅に対して支援が行われています。窓はガラス交換、内窓設置、カバー工法による交換、はつり工法による交換のいずれか、玄関ドアはカバー工法による交換、はつり工法による交換のいずれかの工事が対象。工事によって補助額が異なり、1戸あたりの上限額は200万円です。

 三つ目は、国土交通省の「住宅ストック維持・向上促進事業」(※)です。耐震改修やバリアフリー化など、賃貸住宅の安全性や利便性を高める工事に対して補助が行われています。工事と同時に、既存住宅状況調査の実施や瑕疵かし保険への加入などが要件とされており、確認が必要です。1戸あたりの上限額は100万円で、補助率は対象費用の3分の1です。

まだ知名度の低い 三つの省エネ補助金

 こうした主要制度のほかにも、あまり知られていない補助金も存在します。

 例えば、経済産業省の「エネルギー使用合理化事業者支援事業」(※)では、省エネ型の高効率給湯器や空調設備の導入に対して補助が行われています。対象となるのは1事業者あたり300万円以上の経費についてで、補助率は3分の1以内です。

 環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」(※)では、再生可能エネルギーや先進的な省エネ設備の導入に関する補助が実施されており、賃貸住宅オーナーでも共同住宅の省エネ改修に活用できる場合があります。補助率は2分の1から3分の2です。

 また国交省の「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」(※)は、断熱性能や省エネ性能を高める先進的なリフォーム工事が対象となり、これまであまり注目されてこなかった賃貸住宅の大型の改修プロジェクトにも使える仕組みが用意されています。補助率は対象費用の2分の1です。

(※)2025年度は募集終了

予算が尽きれば制度終了 申請が間に合わないケースも

 一方で、補助金制度には予算が限られているという大きな特徴があります。最近の例では国交省が行った「こどもエコすまい支援事業」が挙げられます。住宅の省エネリフォームや新築に対して幅広く補助が行われた制度ですが、23年度は開始から数カ月で予算枠が埋まり、予定よりも早く受け付け終了となりました。このように募集が集中すれば、短期間で終了する可能性は十分に考えられます。

 また最初に紹介した先進的窓リノベ事業についても、過去には予算を超える申し込みが殺到し、早期に受け付け終了となったことがあります。その後に追加予算が組まれたこともありましたが、利用を希望していたオーナーの中には申請が間に合わなかったケースも見られました。

 こうした事例は「情報を知っていたかどうか」「準備を早く進めていたかどうか」で結果が変わることを示しています。

情報収集を習慣化 専門家と連携し早めに準備

 補助金を活用する際には、まず募集期間と予算規模を正しく把握することが何よりも重要です。多くの制度は年度単位で運用され、予算消化が早ければ途中で終了してしまいます。

 また申請には工事計画書、見積書、施工写真などをそろえる必要があり、専門的な知識や書類作成が欠かせません。そのため、建築士や行政書士らの専門家と連携し、早めに準備を始めることが成功の鍵です。

 国の補助金・助成金は、経営改善と物件価値向上を同時に実現できる大きなチャンスです。情報を逃してしまうと、せっかくのチャンスを活用することができません。地主・家主の皆さんには、公式サイトのチェックや専門家への相談を習慣としてもらい、ぜひ積極的に取り組んでいただければと思います。

 14回にわたりリレー形式でお届けしてきました本連載は、今回をもちまして終了します。ありがとうございました。

今回の解説
オークン社労士事務所(千葉県船橋市)
研修獲得コーチ(社会保険労務士)
大塚 訓

 企業の研修講師向けに「研修獲得アカデミー」を開催し、提案書のブラッシュアップを通じて提案力を高める方法を指導する。社労士として実践的な就業規則の提案を行うほか、助成金の相談・申請に携わる。不動産ビジネス専門家協会、社労士会、外資系金融機関などで助成金セミナーの実績多数。キャッシュフローコーチ®として、経営者が数字に強くなりお金に振り回されない経営を実現する支援を行っている。

(2026年 1月号掲載)

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