<永井ゆかりの刮目相待:1月号>

連載第100回 明るい未来

目を背けない

 間もなく2025年が終わる。この1年はいろいろな意味で節目の年だったように感じる。時代の変化に応じてさまざまな法改正が行われた。業界的なことでいえば、大きく二つ。省エネルギー基準適合義務化と改正住宅セーフティネット法だ。いずれも、これまで家主が積極的に行ってこなかった取り組みに対する法改正となる。積極的ではなかったということはつまり、「できればやりたくない」ことだといえる。

 特に改正住宅セーフティネット法は、高齢者をはじめとする住宅確保要配慮者を、賃貸住宅の入居者として受け入れやすくするためにつくられた制度だ。これまで高齢者の入居については、貸主側は管理会社も含めて孤独死や家賃滞納にリスクを感じて避ける傾向が強かった。そのため、今回の法改正では、なぜ拒否するのかについて、国土交通省の担当官が丁寧に現場へのヒアリングを行って策定した。

 こうした法改正をしなくてはならないほど、わが国の高齢化は待ったなしで進んでいる。 25年は高齢者の人口に占める割合が29%と過去最高を更新した。目を背けられない事態になっていることを実感する。

幸福感を考える

 さて「ウェルビーイング」という言葉を最近聞く機会が増えた。ウェルビーイングとは、身体的健康、精神的健康、そして社会的充足感の三つが満たされた状態のことをいう。近年は国・地域の豊かさを表す指標としてGDP(国内総生産)などの数値のほか、主観的な豊かさを示すウェルビーイングの概念が重視されるようになった。

 このウェルビーイングの要素の中で、最も注目したいのは社会的充足感だ。心身の健康はかなり個人によるところが大きいが、社会的充足感はその人が置かれる環境によって変わってくる要素だといえる。この部分に着目して事業を展開するのが「世界がうらやむほど、“明るい高齢社会”を目指したい」と話すジーバー(仙台市)の永野健太社長だ。

 同社は「ジーバーFOOD(フード)」という飲食事業で、シニアがスタッフとして「食」を通じて地域に元気と笑顔を届ける場を提供している。

 ジーバーFOODで働くスタッフたちは生きがいを求めて集まった人たちだ。妻に先立たれた男性は、同じシニアスタッフたちと共に働くことで、社会と接点を持てるようになった。夫を亡くした女性は、ジーバーFOODで働く姿を見た孫から「おばあちゃんの頑張る姿を見て自分も頑張らなくてはと思った」といわれて涙を流していた。

 不動産オーナー自身が、高齢者やその周りの人の生きがいを感じる場所を提供することは難易度が高いだろう。だが、そういう取り組みを参考に地元の仲間や知り合いと共にできることはあるかもしれない。

  26年は丙午ひのえうま。情熱的でエネルギッシュな年だそうだ。幸福感を得られる明るい社会を目指すために、まずは大きな一歩を踏み出せる年にしたい。

永井ゆかり

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2026年 1月号掲載)

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