資産価値を向上させるための仕組みづくり その3

コラム欧米に学ぶ 土地活用

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資産価値を向上させるための仕組みづくり その3

 今号も2025年12 月号に引き続き、10月号で紹介した四つの資産価値を向上させるための仕組みづくりから、三つ目のサスティナブルを実現させるコミュニティーについて紹介します。

3.サスティナブルコミュニティーの実現

 国民にとって住宅ほど高額な資産はありません。住宅の資産価値(価格)が購入した時以上に維持・向上させることができれば、国民は安心して将来の生活設計を立てることが可能となります。それは人類共通の願いであり、どのようにしたら実現できるか世界中の人たちは考え、取り組んできました。

 これまでに説明してきた「資産価値を向上させる仕組みづくり」が、恒久的に機能し、人間生活におけるコミュニティーが好ましいカタチで成熟していかなければなりません。

 サスティナブルコミュニティーの実現には大きく分けて三つの重要なファクターが含まれます。(図1参照)


 同年8月号で、説明したエベネツァ・ハワードの「ガーデンシティの理論」の踏襲や、米国で生まれた住宅地開発理論であるTND(トラディショナル・ネイバーフット・ディベロップメント)に沿った住宅地を造るということは言うまでもありませんが、それらを守っていく仕組みが大切になってきます。

 そこで今回はその中で最も重要であるこの資産形成を守る「 3種の神器」について紹介します。 3種の神器とは、マスタープラン(基本計画)とアーキテクチュラル・ガイドライン(建築設計指針)、CC&Rs(カベナント・コンディションズ・リストレクションズ:住宅地管理基本計画)、HOA(ホーム・オーナーズ・アソシエーション)による厳しいルールを守るための自治組織で「良循環」を生む維持管理の三つのことです。(図2参照)


 日本における代表的な高級住宅地といえば、渋沢栄一が開発に関わった田園調布がよく知られています。しかし、田園調布には本来豊かな住宅地に欠かせない 3種の神器が存在しませんでした。

 そのため、高度経済成長を経て資産価値こそ向上したものの、当初構想された住宅地本来の豊かさと美しさは失われてしまっています。それは「個人の住宅は個人の資産であり、自由に扱っていい」という、身勝手で未熟な発想の帰結ともいえます。

 本来、住宅地とはその地域に暮らす人々のみならずそこを通過する人々までもが共有する環境であり、各自の都合だけで勝手な振る舞いが許されるものではありません。ルールがないうえに、この視点に立てなかったことが現在の姿を招いた一因だと考えられます。

 このような状況を防ぐためにも、3種の神器は住宅地にとって欠かせないものなのです。

 まず、住生活が営まれるハード面から見た環境として住宅地のマスタープランが、ガーデンシティーの理論およびニューアーバニズム(新都市主義)を含むTNDの理論などに沿って作られることが前提となります。

 計画を実現するために、地区内の建築はマスタープランを順守したアーキテクチュラルガイドラインに従うことを義務付けられます。住宅地におけるアーキテクチュラルガイドラインとは住宅地や分譲地において、統一感と良好な景観・環境を保つための建築ルール・設計基準のことです。簡単に言えば「この住宅地では、どんな建物をどんなデザイン、素材、色、配置で建ててよいかを定めたルール」です。その結果、まちは年を追うごとに熟成します。マスタープランとアーキテクチュラルガイドラインは、経年による住宅の修繕やリモデル時にも住宅地の雰囲気を壊すことなく施工されるようにするうえでも役にたちます。

 次に、これらの計画意図を尊重し、環境が適切に利用・維持されるよう、すべての居住者がその環境の保全に努めるためのソフトなルールCC&Rsを策定し、それを約款として締結します。例えば、植栽の剪定せんていやごみ出しのルールなどがそれに含まれます。

 契約とは、取り決めたルールを守らなかった場合に責任を明確にし、履行を確保するための仕組みです。米国などの例を挙げるとその担保として、罰金の規定や住宅に対する先取り特権の設定など非常に厳しいルールを設けられることがあります。

 最後に、その対象の住宅地に住宅を所有する居住者全員が強制加入するHOAという自治団体を結成します。これにより個人が専有する財産以外の共有物に関しても適切に維持管理されるのです。実際にはHOAが管理委託事業者に依頼してCC&Rsを含め、さまざまなことに対処していくことになります。

 米国においてはこの一連の管理体制が非常に厳格で、ルールを守らなかった者が実際に強制退去を命じられることもある住宅地が存在し、一説によると「鬼より怖いHOA」などと揶揄やゆされることもあるようです。しかし、この厳格なルールこそが住宅地の価値をさらに高め、資産価値向上に関心の高い、規律を守る住民を呼び込み、住宅地の成熟を促す好循環を生み出します。

ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

(2026年 1月号掲載)

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