両利き経営のススメ:省エネ時代の資産価値を検証

コラム両利き経営のススメ

<<両利き経営のススメ VOL.4>

省エネ時代の資産価値を先行改修で検証する

 法改正により、2025年4月1日以降に着工する原則すべての新築建築物には、省エネルギー基準への適合が義務付けられました。

 既存の建築物への一律の改修義務はありませんが、市場全体の評価軸が更新されます。省エネ性能の高い住宅への金利優遇制度を導入する金融機関が増えており、性能が低い既存物件は将来的な資産価値低下のリスクが増す一方で、適合物件は市場で選ばれやすくなるなど、評価の差が拡大するでしょう。

今後の投資を生かす先行改修

 地主や家主にとって、省エネ基準への適合義務化による市場の変化は、対応すべきコストの一つ。そして同時に、新たな付加価値を試す投資の好機でもあります。しかし、保有物件全体の省エネ改修を一度に行うのは、投資額が膨大になり、失敗時のリスクが大きくなります。

 リスクを抑えつつ市場の反応を見るため、1室先行改修という戦略的な市場実験を提案します。この市場実験は、単なる従来どおりの修繕計画の見直しではありません。目的は、省エネ性能の向上という付加価値が、市場でどのように受け止められるのかを探索的に検証することにあります。改修費用をオーナーが負担し、光熱費削減の便益を入居者が享受するだけでは、投資費用は回収できません。

実務上の知見の獲得が大切

 具体的には、まず1室だけを先行して改修します。そして、光熱費の節約効果などをデータとして入居者へ提示し、内見の回転率や許容される家賃の変化を確認します。単一事例であるため確定的な結論は得られませんが、市場の初期反応を観察し、より大規模な展開時の参考とするのです。

 また先行改修による実験の評価は、短期的な収益性の観点から行うべきではありません。失敗を許容する予算をあらかじめ設定したうえで、いくらもうかったのかではなく、省エネ改修への入居者の反応はどうか、想定外の課題はなかったのか、全棟展開に向けた実務上の知見が得られたのかという学習の成果で評価します。

 省エネ基準の義務化は、皆さんにとって自社の資産ポートフォリオを未来の市場に適応させるための、戦略的な実験を開始する絶好の機会になるでしょう。最初の一歩として、保有物件の現在の省エネ性能を診断してみること、あるいは活用可能な補助金制度を調べてみることを推奨します。


解説
ボルテックス(東京都千代田区)
安田 憲治 主席研究員

一橋大学大学院、経済学研究科修士課程修了。データサイエンスを活用した経営戦略の策定や人材育成に注力する。現在、ボルテックスにて、財務戦略やAI(人工知能)データ利活用、論考執筆に携わる。多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員。麗澤大学国際総合研究機構客員研究員。

(2026年 2月号掲載)

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