<<誰かに教えたくなる名字のトリビア:日本の名字の面白さ>>ー最終回
前回は、九州・沖縄地方の珍しい名字を紹介しました。これまで、全国を6ブロックに分けて各都道府県の珍しい名字を紹介してきましたが、紹介できたのはほんの一部の名字です。日本にある約13万の名字の中には、まだまだ珍しい名字がたくさんあります。由来が不明な名字もあります。それぞれの名字には、それぞれの先人の思いが込められています。ぜひ、それらの名字の由来を突き止めてみたいものです。
「誰かに教えたくなる名字のトリビア」も、今回が最終回となります。
これまで紹介できなかった名字
今回は、今までに紹介できなかった名字について解説したいと思います。
北海道に「四十物谷(あいものや)」という名字があります。この家は、元々本州に住んでいて「四十物(あいもの)」を名乗っていましたが、北海道に渡り「四十物谷」にしました。「四十物」とは、魚が干物になるまでの中間の物「間の物(あいだのもの)」を指し、始めから終わりまで「始終(しじゅう)」で「四十」の文字を当て「四十物」になったと言われています。
埼玉県には「左衛門三郎(さえもんさぶろう)」という、名前のような名字があります。漢字5文字の名字は、山口県の「勘解由小路(かでのこうじ) 」と「左衛門三郎」の二つだけです。名字の由来は、日本の律令時代に左衛門府という役所が置かれ、そこに「左衛門尉(さえもんのじょう)」という役職があり、この役職に就いていた人が名乗りました。
長野県に「織田大原(おだおおはら)」という名字があります。いかにも、「織田」という名字と、「大原」という名字を合わせたような名字です。実は、明治時代以前は、夫婦別姓でした。明治になり、役場に名字を届ける際に、双方の名字を残そうと考え「織田」と「大原」を合わせて「織田大原」の名字にしたのかもしれません。織田大原さんの住んでいる地域には「織田」という名字の人もいます。ほかにも、「谷口平野(たにぐちひらの) 」や「鍛冶矢口(かじやぐち)」「坂井野沢(さかのざわ)」「小田多井(おだたい)」など、二つの名字を合わせたような名字が存在しています。
兵庫県には「蟻通(ありどおし)」という名字があります。名字の由来は、大阪府泉佐野市にある蟻通神社の名前です。「蟻通」という言葉は、清少納言の「枕草子」に書かれています。その昔、唐土(もろこし)の帝が日本を属国にしようと、日本の帝に難題をふっかけてきました。「中にうねうねと折り曲がった穴が通っている玉に、糸を通す方法は?」と。帝から重用されていた中将が、古老の助言を得て、「アリの腰に細い糸を結んで、玉の出口に蜜を塗れば、アリは蜜の香りを嗅ぎつけて出口に出てくる」と帝に進言しました。この古老の知恵によって日本は守られたということです。つまり、アリが通したことから「蟻通」になりました。
名字は代々伝わる家宝
このように、名字にはさまざまな由来が残されています。言い伝えなので、確実な証拠はないものの、いずれも夢があるお話です。
読者の皆さんも、さまざまな名字の人がいると思います。ぜひ、ご自分の名字の由来を調べて、子や孫に伝えていってほしいものです。名字は、その家だけに伝わる大事な「家宝」です。末永く守ってください。
名字研究家 髙信幸男

1956年茨城県大子町生まれ。
司法書士、名字研究家、日本家系図学会理事、茨城民俗学会会員、日本作家クラブ会員。高校1年生から名字の研究を始め、今年で53年目を迎える。現在、講演会やテレビ番組で名字の面白さを伝える活動を行っている。
(2026年3月号掲載)






