受け継いだ地域で目指すは「住み続けたい」場所

賃貸経営地域活性

<<地主のフィロソフィー>>

受け継いだ地域を耕す 目指すは「住み続けたい」場所

築45年になる賃貸住宅の一部をレンタルスペースとしてリノベーションし、地域住民に開放している金子光広オーナー。目先の安定的な賃料収入ではなく、利用者の満足度を優先させる金子オーナーの目線は「住民の地域への定着」に向いている。

金子光広オーナー(横浜市)

 

近隣住民の充実感を重視 住戸をレンタルスペース化

 相模本線鶴ヶ峰駅からバスで8分ほどの場所にある、横浜市旭区中白根通り地区。金子光広オーナーは、この地区に続く農家の6代目だ。

 賃貸事業を始めたのは祖父の代からだ。金子オーナーは、20代後半から会社員の傍ら、父親の賃貸経営を手伝っていた。だが2006年に父親の介護が必要になったことをきっかけに、36歳で会社を退職。それ以降は専業家主として賃貸経営に携わっている。

 現在は、4棟25戸のアパートのほか、戸建てや底地を複数所有。22年には障がい者向けグループホームを建設し、事業者に定期借家契約で貸し出している。

 「私の代ではもう農業はしていません。しかし、受け継いだ土地や物件を使いながら『地域』という畑を耕している、という意識を持っています」(金子オーナー)
地域を耕す―住民たちが地域へ関わるきっかけとなる場所を準備し、そこから派生した関係性を構築していくことを、金子オーナーはこう表現する。

 こうした特徴をよく表しているのが「金子ハイツC棟」だ。築37年になる2階建てのアパートで、19年に1階の居室をレンタルスペース「古道カフェ ヱンルゥト」としてリノベした。

 きっかけは、中白根地区の人口減少問題についての記事を読んだことだった。
 「地域のコミュニティー紙で、エリアの15歳未満の人口数が25年までに25%減少する見込みだと読みました」と金子オーナーは振り返る。人口減少の流れはどうしても止められない。賃貸経営「だけ」を見ていると失うものがあるのではないか。物件を地域の資産と捉え、アクションを起こしたいと考えた。

 そこで思い付いたのが、周辺住民、特に育児に専念する女性たちが週1回でも自分の特技を生かすことのできる場所をつくり出すことだった。

 「会社員時代、女性社員が出産や育児で退職する姿を見てきました。一度仕事を離れると、復帰が難しい。そこで、仕事に戻るのは大変だけれども、たとえ短時間でもキャリアを生かす場所があれば、きっとやりがいが生まれると思ったのです」(金子オーナー)

 そして、そのやりがいは「この地域に住んでいて良かった」という気持ちにつながるのではないか。そう思い至ったのだ。

 もともとは3DKの間取りだったが、300万円をかけてリノベ。和室と洋室、そして業務用の設備を備えたキッチンとカフェスペースに変えた。キッチンは、お店を始めたいものの、いきなり店舗を借りるのはハードルが高いと考える人が挑戦できる場にしたいと思い「チャレンジキッチン」とした。建具の一部は神奈川県産の木材を使うなど、地産地消も意識した。

▲プロ仕様のキッチンを利用できる

 現在は英語教室として子どもたちの学習の場になり、また音楽教室も開催され大人も楽しめる場所として利用されている。

 併せて金子ハイツC棟の前にあった月極駐車場もキッチンカーを止めたり、イベントを行ったりできるポケットパークに造り替えた。週3回、元教師の女性がサンドイッチ販売のキッチンカーを営業している。

 チャレンジキッチンは週1回の利用で月額1万8000円、レンタルスペースは3時間1000円に設定。利用者のハードルは低いが、その分、オーナーの収益はわずかだ。

 「賃貸住宅や駐車場にしていたほうが収入は安定します。ですが、所有する土地に地域住民の『関わりしろ』をつくることで人々の間で土地に愛着が湧き、ひいては住民の定着につながる。それが将来にわたっての安定につながると考えます」(金子オーナー)

▲キッチンにはカフェスペースもある

豊富な間取りの賃貸住宅 所有物件内で住み替え可能

 金子オーナーの所有する物件の間取りは、1LDKや2DKといった単身者向けから2LDKなどファミリー向けまでが揃っている。

 「かつて、中白根地区はファミリー層がほとんどでしたが、今は単身者や2人入居も多い。そうした人たちを受け入れつつ、人生のステージが変わった際には、私の所有物件内で住み替えをしてもらえればいいと思っています」(金子オーナー)

 子どもができたため部屋数の多い戸建てに引っ越す人もいれば、子どもが巣立ったことで広い間取りから一回り小ぶりな間取りに引っ越したいという入居者もいる。さらに、障がい者向けグループホームを誘致したのも住み続けられる地域づくりの一環といえる。

 「実は、会社員時代の同僚があるきっかけで障がい者になってしまいました。彼を見ていると、障がい者になる可能性は誰にでもある。そういう点では、障がいがあったとしてもこの町に住み続けられるオプションがあることは大事です」(金子オーナー)

 歳を経ても、あるいは想定外の出来事が起きたとしても、一度、中白根地区に住む選択をした住民が、住み続けられるような物件を提供すること。これも金子オーナーの考える「エリアを耕す」方法の一つだ。 

 金子オーナーの名刺には「地営業」という肩書が記されている。その言葉には、いかに自身の人生が中白根の土地と不可分であるのかを表している。それゆえ、所有する土地を耕し続けることが大事だと強調する。

 「十分に耕された、つまり用意された場所があれば、そこに人が集まり、種をまいていってくれます。こうして活性化が持続可能な地域になってくれればいいなと思います」(金子オーナー)

▲店主とのコミュニケーションも住民にとっては嬉しい

(2026年3月号掲載)

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