両利き経営のススメ:外部パートナーの役割は分ける

コラム両利き経営のススメ

<<両利き経営のススメ VOL.5>>

探索のためには外部パートナーの役割を分けることが大切

 前回は戦略的な市場実験の方法を紹介しました。しかし「やってみたいが日常管理だけで手いっぱい」「管理会社に相談しても前向きな提案がない」という声が多いのが現状です。問題はオーナー個人の能力にではなく、賃貸経営を誰とどう分担して回すかという体制の設計にあります。

 両利きの経営は、既存事業を深める「深化」と、新しい打ち手を試す「探索」を同時に進める考え方です。地主・家主は、管理会社や金融機関、建築会社など外部専門家を自身の組織と見なし、役割を分けて使う必要があります。ここで、既存入居者への対応や家賃回収を担う「守り」の深化パートナーと、省エネルギー改修や新業態テナントといった「攻め」の探索パートナーに役割を分けます。

 管理会社や税理士には、管理物件や顧問先が減る方向の提案、つまり売却や組み換えをしにくい利害関係があります。誠実さの問題ではなく、収益の構造上そうなります。このため、資産の見直しを含む探索は、最初から別のパートナーに任せたほうが合理的です。

 そして、どこまで探索に回せるかを感覚ではなくルールで決めます。ここで使えるのが債務返済の余裕率を表す指標DSCRです。DSCRは純収益(NOI)を年間元利返済額で割った値で、1・2倍以上を安全の目安とします。ポートフォリオ全体のDSCRを計算し、NOIがどこまで減っても1・2倍を維持できるかを確認し、その差額を「一時的な収益減を許容できる上限」と見なして探索に回します。

 探索枠は戸数と金額の両方で設計します。目安として、探索に充てる戸数の上限を総戸数の1〜2割程度にとどめ、残りを基盤資産として安定運営に充てます。そのうえでDSCRの安全の目安値を下回らない範囲で「年間何戸分まで探索に回せるか」を逆算し、その枠を探索パートナーと共有します。

 探索の打ち合わせは通常の管理報告会とは分け、現場やパートナーのオフィスなど図面や素材を広げて話すことができる場所で行います。収支表を前にする場は、深化の場と切り分けることで考え方も整理しやすくなります。オーナーの仕事は、自分ですべてをこなすことではなく、この二つのチームと探索枠のルールを設計し、どの資産を守り、どの資産を将来組み換えるかを判断することです。


解説
ボルテックス(東京都千代田区)
安田 憲治 主席研究員

一橋大学大学院、経済学研究科修士課程修了。データサイエンスを活用した経営戦略の策定や人材育成に注力する。現在、ボルテックスにて、財務戦略やAI(人工知能)データ利活用、論考執筆に携わる。多摩大学サステナビリティ経営研究所客員研究員。麗澤大学国際総合研究機構客員研究員。
(2026年 3月号掲載)

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