オーナー共通の悩みに向き合う ―賃貸住宅フェア2026東京 セミナーレポート

賃貸経営イベント

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経験に基づく事例を用いて
不動産オーナー共通の悩みに向き合う

7月29~30日の2日間、「東京ビッグサイト」で「賃貸住宅フェア2026東京」が開催された。例年好評のセミナー企画の中から、29日に行われたセミナー3件をピックアップ。金利やインフレを踏まえた不動産投資の考え方、借地整理トラブルへの対策やビルの建て替え計画についての講演を紹介する。

この記事の目次 不動産投資30年超のベテラン家主が語る―沢孝史氏
手放したらそこで終わり―石渡真由美氏
相続したビル建て替えに向けた戦略―杉山大介氏

 

不動産投資30年超のベテラン家主が語る
資産性を考えた不動産運用

家賃上昇率の見極めを重視
売却益最大化につなげる


沢孝史氏


 静岡県や熊本県などで計14棟、175室を運営する沢孝史氏は、自身の経験からインフレや金利変動の影響を抑えた不動産投資について話した。

 高利回りで借り入れ拡大による収益増加を狙う従来型の不動産投資手法から、インフレ下の昨今は別の戦略を検討する必要があるのではないかと指摘した。

 具体策の1つに挙げたのは所有期間利回りのコントロール。仮に低利回りで収益がマイナスになっても、家賃の上昇と売却益で勝負できるのではないかということだ。

 「特に重要なのは家賃の上昇率である」と沢氏は語る。例えば1億円の物件を例に挙げると、現在の首都圏相場である表面利回り6%、家賃上昇率1・5%の物件を、借り入れ8000万円、自己資金2000万円で購入したとする。10年で未回収額は4970万円。売却時確定利益は2546万円となり、15年スパンで見ると同数値は右肩上がりになることが期待できる。

 一方で家賃上昇率が低い、またはマイナスになる恐れのある地方にある物件の場合、売却時確定利益は低迷する。沢氏は「表面利回りが7%だとしても、収益還元評価は低くなる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 例外は築浅の中古物件だ。1億円の物件で表面利回り7%なら、銀行の対応により自己資金を1000万円程度に抑えられる可能性がある。その場合は、高リターンを期待できると沢氏は述べる。

 「ある程度資金があってじっくり攻めていくのであれば新築がいい。資金面は厳しくてもできるだけ家賃収入を増やしたいならば築浅といったように、自分の状況に合わせた投資手法が今後は求められるのではないかと考えています。今までは家賃が下がる前提での不動産投資でしたが、どの程度まで家賃を上げられるかという目利きが、これからの物件選定の一番大切なポイントになってくると思います」(沢氏)

▲沢氏の会場では長蛇の列ができた

インフレに対応できる 空間設計のツボ

「入居者付けには『立地』『需要』『家賃』の3要素が重要である」とも話す沢氏は、インフレ局面に追従する空間設計について、自身が手がけた埼玉県の物件を事例に挙げた。

 木造3階建てを建てることができる立地にあえて2階建てを建築し、ゆとりある間取りを実現した。玄関を入ってすぐの場所に階段、室内には床下収納やスキップロフトなどがあり、ロフト込みで約30㎡の間取り。22~23㎡の物件と比較しても付加価値が感じられることから、5万円台で募集を始めた家賃は現在6万4000~6万5000円まで上昇。つくり込みが功を奏したといえる。

 「1Kは表面利回りが高く出やすいため、つい企画してしまいがちですが、結局立地が悪いと、間取りが良くても入居付けが難しい。逆に立地や空間の条件が良くても家賃が高いと入居者が付きづらい。立地と間取りなどのバランスを取りながら囲い込みをしていかないと、非常に戦いづらくなると思います」と沢氏は語った。

 

手放したらそこで終わり
底地を諦めない私の奮闘

底地を「虫食い状態」にしない
土地を守る戦略的な解決


アップルツリーハウス
代表 石渡真由美氏


 8代目地主として不動産を継承した石渡真由美氏は、自身の経験をもって土地をどのように守り、活用してきたか、その方法について解説した。

 まず石渡氏は長期にわたり資産価値を維持するためのポイントとして、3つの視点が必要であると指摘した。それは先祖代々の土地を守り次世代へつなぐ責任を持つ「地主」、入居者の需要に即した設備や適正賃料のバランスを確かめる「仲介・賃貸管理事業者」、事業者を見極め長期維持管理に必要な信頼関係を構築する「マスターリース・建物維持管理事業者」だ。

 そして、土地を守る地主の課題として、底地と借地の整理には「戦略的な解決が望ましい」と石渡氏は述べる。「対話による信頼関係の構築」「好意的な解決案の提示」「事前測量での境界トラブルの予防」が戦略的解決のプロセスに必要な3要素だ。一部の底地を売却して「虫食い状態」にすると、底地価値が相場の2割以下に落ちる危険がある。だからこそ整理は戦略的に行うべきだという教訓を得た。

 石渡氏がこれまでの借地整理の実例を総合的に評価すると、4勝2敗6引き分けだという。4勝(無償更地返納)とは誠実な借地人が「借りたから返す」と合意解約したケース。2敗は不動産事業者が介入し、借地権を買い戻したケース。引き分けと判断するのは、建物を買い取り、解体費を地主が負担し、登記を移動したケースだ。

 特筆すべき実例として、狭小・再建築不可の借地を巡る訴訟では、最終的に75万円の和解金を支払う結果となり、地主側の理不尽な負担が浮き彫りになった。また大手不動産会社が2990万円で売り出しても売れ残った借地を、700万円で買い取ることに成功した事例もある。30年以上供託が続いた借地では、相続人との粘り強い交渉の末、地主負担で解体・合意解約を実現したが、問題解決に約40年を要したこともあるという。

 石渡氏は借地問題が起きる一因として「人付き合いができないこと、家族不和であることが背景にある場合が多い」と振り返る。 

▲借地に悩む地主は数多い

非訟事件には権利の行使と毅然とした対応を

 土地の権利について折り合いがつかない場合、非訟事件に持ち込むこととなる。「裁判所は旧借地法に基づいて判決を下すだけとなるため、定期的な地代の値上げ、更新料の明記、建て替え承諾料支払いまでは解体拒否などについて、毅然(きぜん)と戦うしかない」と石渡氏は述べる。

 「弁護士費用がかかることを覚悟して備えてください。いずれにしても、借地非訟事件では地主の介入権と呼ばれる優先譲り受け権が行使できますが、不動産鑑定士は更地所有権に対して借地権割合を入れて価格を算定するだけです。権利金や更新料、承諾料の授受がなく貸しただけでも、無償更地返納の約束があっても、旧借地法が存続する限り無条件に借地人が保護されている事実は変わりません。地主はここで諦めるのではなく、介入権、優先譲り受け権を行使し借地を購入してでも、次の収益を生む物件を育てましょう」(石渡氏)

 数々の苦難を乗り越えた石渡氏。だが、その経験によって金融や建築の見直しを進めることができた。その過程ではビジネスパートナーにも恵まれた。建築設計のパートナーと共に手がけた賃貸物件「Lares(ラレース)」シリーズはすべて満室経営中だ。

 「昨今は分譲マンションの建て替えが話題にあがっていますが、土地所有者である地主だから1棟の建物を所有することができます。1棟の所有者だから、建物維持管理にも責任が持て、いずれ建て替えもできます。土地を守るということは単に現状維持で持ち続けることではありません。その土地が持つポテンシャルを最大限に引き出し、地域に必要とされる住まいを提供することでもあります」とセミナーを結んだ。

 

相続したビル建て替えに向けた戦略
コストダウンと家賃アップの鍵

コロナ禍により建て替え計画中断も
投資物件の新規運用で収益の柱を確保


杉山ビル
社長 杉山大介氏

 杉山大介氏は父の相続トラブルをきっかけに賃貸経営に参画した。

 1973年築の「杉山ビル」を2014年に相続。同ビルはJR関内駅徒歩3分の場所に位置し、延べ床面積903㎡、土地面積158㎡、鉄骨鉄筋コンクリート造の7階建て。15年の法人設立後、不動産管理を行うにあたり一般社団法人不動産オーナー経営学院(REIBS)でノウハウを習得したことにより物件調査を行い、現状の課題を把握する機会ができた。そこで得た学びは人的警備から防犯カメラへの切り替えや配管の更新など、必要最小限のコストで済む修繕に生かしていった。

 ノウハウを積み重ねる中で17年に検討し始めたのが、建て替え計画だ。22年の着手を想定して、採った戦略は各テナントに対して定期借家契約への切り替えや賃料増額の交渉を進めることだった。応じたテナントもあったものの、新型コロナウイルスの感染拡大により計画はいったん頓挫した。

不動産投資を開始 見いだした新戦略

 ビル経営にとって逆境ともいえるコロナ禍の局面で、杉山氏は杉山ビルに代わる収益源の獲得を目的に、不動産投資を始めた。24年に購入した1996年築、本厚木駅からバスで20分の場所に立つRC造マンションは、駐車場付きで2800㎡、売買価格2億7000万円、当時の利回りは9・6%だった。建物の老朽化が進んでいたことから、防草シートの導入をはじめ中庭の整備やエントランス周りの塗装といったバリューアップを実施。10部屋に1万円の賃料増額を交渉し、うち7部屋で要望どおりの増額に成功。現在満室で月120万円の賃料収入につなげている。

 現在、神奈川県厚木市内の物件を含め5棟の賃貸経営を行う杉山氏。不動産投資による資金調達の戦略のめどが立ったことに加えて関内エリアの再開発が追い風となり、25年に杉山ビルの建て替え計画を再始動した。これを機に新たに始めた戦略がAIを活用した業務効率化と収支予測のシミュレーションだ。

 具体的には入金管理やテナントへの請求書作成、物件と顧客のマッチングなどの業務で導入した。入金管理では1時間かかっていた「エクセル」への打ち込み作業を20分程度に短縮できた。さらに毎月の収支報告をAIに読み込ませることによって、月次・年次収支を可視化した。

 また関内エリアの募集図面や成約図面を350件ほどAIで分析した。

 「建て替え後のシミュレーションをした結果、低層は店舗、中高層は住居とするテナントミックスが最も賃料最大化につながる可能性が見えてきました。一方で事務所は募集期間が長期化することから、収益性を踏まえると優先順位は低くなることがわかっています」(杉山氏)
 さらにAIでビル建て替えの概算見積もりも行った。総工費は7億円、年間賃料は5034万円、金利1・5%、融資期間は47年の計画が見込まれるという。

 現在、地場の工務店など5社に見積もりを依頼しているという杉山氏。26年中には施工会社を決定し、30年の竣工に向けて27年以降は具体的な建築プランの作成、テナント退去に向けて動いていく予定だ。

 「今後は非住宅部分における消費税の還付の対応や地場に強いリーシング会社の情報の取り入れなど、AI活用以外での戦略も積極的に進めていきたいと考えています」(杉山氏)

▲ビルの建て替えという一大事業について語る杉山氏

 

(2026年11月号掲載)

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