築年数が経過した物件は、いずれ家賃を下げなければ入居者を獲得しにくくなる。だが、外壁などの外観や共用部をリノベーションすることで家賃や入居率のアップにつなげることができる。リノベ成功事例を紹介し、その理由を探る。

エントランス
「一般的」という印象を払拭 特徴的な物件の顔づくり

CASE1:古さを隠さず生かす

レンガを残してレトロを押し出す

 第一印象をよくすることで物件の資産価値を高めるリノベサービス「第一印象リフォーム」を手がけるのは、サインズスクエア(大阪市)だ。同社の西村友宏社長は「外観、エントランス、集合ポスト、エレベーター、部屋の前と内見者の動線を意識してリノベを設計していきます」と話す。

ここに注目

物件の雰囲気が一目でわかるロゴの下には物件の案内図も作成。一見不要にも思えるがデザインの一つとして考えられている。

 2019年にリノベした「本多マンション」は、1980年竣工のRC造の団地タイプの物件だ。リノベ前は、全体的に白やグレーの配色で、無機質な印象だった。だが、その中でインパクトがあったのが、赤レンガのエントランスだった。
 家主自身は「レンガが古くさい」と考えていたが、西村社長は、レトロなレンガの良さを引き出せるリノベを提案。赤いレンガはそのままに、エントランスの上部に館銘板を設置した。築古物件の場合、築年数に合ったレトロな味わいのフォントを用いるといいという。
 そのほか、同物件ではロゴの作成も行った。同じく懐かしさを感じさせる丸窓のようなデザインを使って「HONDA」の文字を表した。「築古物件のリノベを行う際は、古いところを隠すのではなく、生かすことが重要です」(西村社長)
 ただし、生かしきれない問題点は解決していく。本多マンションの場合、エントランスの照明の暗さだ。リノベ前は、白色蛍光灯が天井に1本設置されているだけで、夜は暗い印象だった。この照明を、ライティングレールに交換した。ライトの色も温かさを感じられる電球色に変えた。入居者も帰宅時にほっとひと息つくことができるだろう。
 集合ポストは、銀色の古いタイプだったものを黒のスタイリッシュなものに変更した。それに合わせて、ポストに付ける部屋番号も館銘板と同じようなレトロな書体を選んだ。
 同物件は、専有部分をDIYサポート付き賃貸物件として貸し出した。18戸中10戸も空室だったがリノベ後は全て埋まり、家賃1万円アップも実現した。ソフト面とハード面、両面のリノベが、住居にこだわりを持つ入居者層の獲得につながった成功例だ。

After                      Before

CASE2 ターゲットを決める

自転車好きの目を引く ワクワクがキーワード

 大阪メトロ谷町線中崎町駅から徒歩6分の場所にある、築35年の「Collection(コレクション)中崎Ⅰ・Ⅱ」のエントランスは、サボテンが植えられたロックガーデンの白さと木調ルーバーの茶色のコントラストが目を引く。「デザインイメージは『サイクリング』です」と話すのはインターデザイン(大阪市)の小寺源太郎社長だ。同社では15年から「外リノ」という物件の外観に特化したリノベーションサービスを提供している。

After                      Before 

 リノベ前の調査時に小寺社長の目に付いたのが、駐輪場の収容台数が足りず、入口からエレベーターホールに向かって無造作に置かれていた自転車だったという。これでは、特に女性入居者を獲得するのは難しいと考えた。

 駅から近いことも考えると、入居者層は移動手段として自転車を活用する層に設定できると考え、サイクリングをテーマにデザインを設計していった。

 無機質な灰色のエレベーターホールもリノベを施した。エントランスと同じく茶色とチャコールグレーの配色で塗り直し、白く塗った4台の自転車をオブジェとして壁に設置した。物件のあるエリアはギャラリーが点在し、トレンドに敏感な若者が好む場所だ。「中崎町は東京でいうところの渋谷。そのため、少し攻めたリノベをしても受け入れられる土壌があると判断しました」と小寺社長は話す。

 エントランスからエレベーターホールまで、終始テーマを持たせた共用部にすることで「この物件に住みたい」という、ワクワクした気持ちを内見者に抱かせることができると考える。内見者の気持ちをつかむことができれば、たとえトイレが温水洗浄便座ではない、あるいは無料インターネットが付いていないというように、設備面で競合物件と比べて不足があったとしても、十分に入居者を獲得することができるという。

 同物件は、専有部のリノベや設備投資をせずに、原状回復工事と共用部のリノベのみで5万5000円から5万7000円への賃料アップを実現した。

ここに注目

本物の自転車を白く塗ったオブジェをエレベーターホールに飾った。デザインテーマを気に入ったオーナー自らが準備して支給したという。

(2024年9月号掲載)
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【特集】第一印象を良くするリノベ術②

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