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路地奥ににぎわいをつくる DIY特化の住居・テナントビル
賃貸物件の建て替えには解体費用の負担が大きくのしかかる。建て替えずに物件を再生したオーナーが採用した手法について紹介する。
▲入居者のDIY済みの部屋にて左から菅完治オーナー(75、東京都文京区)とHAGISO(東京都文京区)設計チーム田坂創一マネージャー(33)
築52年のアパート コミュニティー賃貸に再生
東京都台東区谷中。谷中銀座商店街から路地を10mほど入ったところにあるのが、1階はテナント、2~3階は住居となっている「初音テラス」だ。菅完治オーナー(東京都文京区)は、この築52年の重量鉄骨造のアパートをリノベーションした。2024年6月に新しくオープンし路地の新しい名所になっている。
初音テラスの特徴は二つ。一つ目は、DIY特化物件ということ。リノベ後の居室は、シャワー・トイレユニットとキッチン、エアコンの基本的な設備以外は床も壁もボードがむき出しの状態だ。そのため、入居者は自由に壁紙や床材を貼ることができる。ペイントや造作も可能で、退去時の原状回復は不要。住居部分にはアトリエも入居しており、住まい以外の用途で使うことが許可されている。
二つ目の特徴は、コミュニティー賃貸であること。2カ月に1回の入居者会議と地域のイベントに参加するよう入居前に約束してもらう。菅オーナーが入居希望者と面接してこのことを伝えるので、コミュニティーづくりに積極的な人々が集う仕組みだ。
これらの特徴を持った物件に仕上げた理由について菅オーナーは「自分の地元である谷中に面白い物件を造りたかったのです。DIY特化の物件は経験がなかったので、非常にワクワクしました。またコミュニティーを重視しているのは、人と人のつながりをつくることが好きだからです。会ったらあいさつし合うまちづくりにもつながると思います」と話す。
DIYに特化したウェブサイトでの募集を24年3月から始め、2カ月ほどで全7戸が満室になったという。
住まい手の好みの居室 原状回復も不要
DIYをしながら住んでいる2人の部屋を見せてもらった。テナント1区画と居住部分の両方を借りている入居者の佐山愛氏は、居室部分の床をパステル色のモザイク柄に仕上げた。壁は白く塗るか、またはこのままボードの質感を生かすのか考え中だという。
さらに、ほかの入居者の部屋も見せてもらうことができた。こちらはモノトーンでまとめられ、レトロな小物やポスターが飾られている。同じ物件の同じような配置の部屋でもDIYをすることで、住まい手の好みが詰まり、全く異なる雰囲気に仕上がっている。「初めは何もなかった空間を、こんなに自分好みに飾ってくれてうれしい」と菅オーナーも満足げだ。
三つのテナントのうちの一つで、正面から向かって左端にある「カフェ&バル奥路地九州堂」は、九州から仕入れた食材を使用した料理を提供する飲食店。近くのよみせ通り商店街にもともと店舗を構えていたが建物の取り壊しにより移転の必要があり、九州の食品販売部分を残し飲食部分だけを初音テラスに引っ越したという。
テナント部分のうち1区画は、菅オーナー自らシェアスペースを運営する予定だ。「私自身も、子ども食堂ならぬ『シニア食堂』を開きたいと考えています」と意気込む。また屋上は定期的にマルシェを開催するなどイベントスペースとして活用することを考えているという。
入居者同士で徐々に顔の見える関係が育まれつつあるが、さらに地域とのつながりも生まれていくだろう。
買い戻した底地に古い建物 壊さず生かしてまちづくり
この場所はもともと菅オーナーが所有する底地だった。22年に借地人から返却される話が出て、建物も含めて買い取ったのだという。「収支面だけを見れば、取り壊して新築のアパートを建てるのが一番効率的でしょう。しかし、スクラップ・アンド・ビルドで新しいものをつくるだけがまちづくりではないと考えています。今回の建物もリノベして再生したいと思いました」(菅オーナー)
借地人から比較的安く買い戻すことができたため、リノベに費用をかけることができた。50年ものの高架水槽を直結給水に変更、外壁や屋上を修繕し、すべての部屋に断熱材を張った。その後、各部屋に最低限の設備を設置している。1階はもともと一続きの住居兼商店だったので三つに分けた。総工費は4500万円ほどだった。「いわゆるボロ物件ですから、修繕には費用がかかりました。しかし、相場程度で賃貸することができたので満室時の家賃が年間600万~700万円となります。6~7年で工事費用の回収が可能です」(菅オーナー)
リノベに際しては、以前から古民家再生の設計を依頼しているHAGISO(ハギソー:東京都台東区)や地元の工務店である寺井工務店(東京都文京区)とタッグを組んだ。「信頼関係ができているチームゆえ、これまで経験のない物件づくりでも安心して取り組むことができました」こう振り返る菅オーナーは、地主であることの強みを感じているという。
土地・建物を持たない人が、コミュニティーの拠点をつくろうと思っても、場所探しから始めなければならないうえ、賃貸・購入するための費用もかかってしまう。「その点、地主や家主であれば、コミュニティーをつくりたいと思ったときに、自分の所有する土地や建物を使うことができます。大きなネックを最初からクリアできているのです。地主や家主がいざやろうと思えば、面白いことができることを実感しています」(菅オーナー)
▲桜島の火山灰で染めて店名を記した布が映える
(2024年10月号掲載)
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