リノベの先にある可能性:リノベでエリアの魅力高める

賃貸経営リフォーム・リノベーション

築70年、30年間空き家だった集合住宅をリノベ
人と建物をつなぎ、エリアの魅力を高める

FUN SPACE DINER

 南海電気鉄道南海線なんば駅から徒歩4分の場所に、築70年の古いアパートをリノベーションしたレンタルスペースがある。2017年に誕生した「FUN SPACE DINER(ファンスペースダイナー)」だ。

 木造2階建ての元集合住宅だった同物件の古き良き雰囲気を残し、柱や窓枠などを生かしている。最大200人収容できる約500㎡という広さで、テレビ番組や、写真、動画の撮影に使用されている。

美想空間(大阪市)
鯛島康雄社長(47)

 実は、30年間も空き家だったという同物件。その再生を手がけたのは、リノベの企画、施工を行う美想空間(大阪市)だ。大阪の繁華街である難波に近い一等地でありながら、土地と建物双方の権利者が複数にまたがり、新たにビルやマンションを建てにくい環境だった。これまで、たくさんの事業者が再開発を計画するも、断念してきた経緯があった。

 「建物は大きい。リノベをすれば魅力を引き出せる」と考えた鯛島康雄社長は、建物を管理する不動産会社と共に権利者の調整を行い、ホテル、レストランウエディング会場、設計デザイン会社、美想空間のショールームの四つが入居する複合施設、FUN SPACE DINERとして、17年に再生した。

 美想空間はこの建物を10年間の定期借家契約で借り上げた(11年目以降は、毎年契約更新)。リノベの設計、施工は自社で担当。ホテル、設計デザイン会社とは、サブリース契約を交わし、レストランウエディング会場とショールームの運営を自社の事業として行った。(ショールームは現在、港区へ移転)

 開業後、レストランウエディング会場は、大きな反響を得た。19年には結婚情報のポータルサイト「ぐるなびウエディング」で全国1位を獲得。2年先まで予約が埋まり、多いときには、1日3回の挙式をすることもあった。その結果、周辺の飲食店に挙式の出席者を送客できるようになったのだ。

▲夜間はライトアップにより幻想的な雰囲気

 やがて、レストランウエディングの人気を知った周辺の大手企業との間で、提携が進むようになった。南海電気鉄道(同)とは、なんば駅と隣の今宮戎駅との間の高架下を再開発する「なんばEKIKAN(エキカン)プロジェクト」を通じて協力体制を構築することができた。22年4月に開業した星野リゾート(長野県軽井沢町)が運営するホテル「OMO7(オモセブン)大阪 by (バイ)星野リゾート」とは、相互送客の提携を結んだ。これらの動きに伴い、周辺の空きビルや空き地に、テナントの出店やコインパーキングなどの活用が進み始めた。その後、レストランウエディング会場は、新型コロナウイルス禍を経て、現在のレンタルスペースに業態を変更した。

 鯛島社長はこの経験を基に、地域一帯の遊休不動産の価値を上げるエリアリノベ事業を展開するようになる。地域を定めて、複数の不動産を購入または借り上げた後リノベして価値を高め、さらにエリアのブランディング、テナントリーシングも行う。これまでに大阪市港区の築港エリア、奈良県大和郡山市、宮崎市などでプロジェクトが動いている。

 テナントリーシングにおいては、自分の店を持ちたいと考える個人事業主や小規模事業者を見いだし、空き家との相性を見てマッチングをする。個性的な商品を提供する小規模な事業者を一定の地域に集めることで、エリアの不動産価値を高めるのが、同社のエリアマーケティング事業の核となる。

 テナントが開業後も長く店を続けられるように、賃料は相場よりも大きく下げて貸し出す。テナントからの賃料収入から逆算して工事にかけられる金額を割り出すため、工事そのものにはお金をかけないことが多い。

 「リノベだけでは粗利は出ない。空き家再生事業、エリアリノベ事業は、貸し手の立場で利益を得るのが一番良い」(鯛島社長)

▲1階の調理設備は使用料を支払えば使うことができる

(2024年12月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて