【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(5)

賃貸経営リフォーム・リノベーション

「場のデザイン」から「共感不動産」を考える

【電子版連載】次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー:特別座談会(4)に続き、第二弾カレッジ「場のデザインから共感不動産を考える」を総括して、九州産業大学准教授・信濃康博氏 、スペースRデザイン・本田悠人氏、𠮷原勝己オーナーの3者で実施した座談会をレポートする。

***リノベーションの20年をふりかえって***

𠮷原:今回の総まとめとして、まず山王マンションがリノベーション文化に何をもたらしたのか、そしてその影響がどこにあるのかを整理しておきたいと思います。
山王マンションは、20年以上にわたって多様なリノベデザインが試行され、その過程で物理的な素材の力や物語性が重要な役割を果たしてきたことがわかりました。木材や鉄の経年劣化による変化が単なる「劣化」ではなく「味わい」や「物語性」を持ち、人々がそれに共感しやすい空間へとつながることは新築物件にはないリノベならではの強みです。
また、山王マンションがもたらしたもう一つの大きな変化は、用途のボーダレス化です。住むだけではなく、働く空間としても活用されるようになり、住居と仕事の境界が曖昧になってきています。これによりリビングや共用スペース、玄関なども単なる機能的な空間ではなく、人々が自由に使いこなす場となりました。このボーダレスな空間設計は、リノベだからこそ可能であり、住む人々にとっては自由で豊かなライフスタイルを実現する手段となっています。
リノベは、機能性や利便性だけではなく「共感」を生み出す空間が重視されるという文化的な変化をもたらしました。共感不動産という考え方は、まさにこのリノベがもたらした新たな視点です。単に空間を提供するだけでなく、その空間が人々にどう影響を与え、どのように共感を引き出していくかが重要になってきているのです。これが、住む人々との持続的な関係性を築くための新しい不動産の形であり、オペレーションも含めて設計するという視点が求められる時代になってきています。
さらに、素材選びや設計においても、ただ見た目や新しさを追求するのではなく、長い目で見て「どう劣化していくか」「どう時間と共に味わいが増すか」を考えることが重要です。これが、リノベならではの「長期的な価値の創造」であり、山王マンションをはじめとするヴィンテージビルが持つ大きな魅力の一つです。これからは単なる物理的な空間提供ではなく、時間と共に成長し、住む人とともに進化していくような「共感を生む空間」が求められるでしょう。

信濃:そうですね、リノベーションが社会にもたらしたものの中で特に重要なのは、まさに「個人の住まうことの豊かさ」を提供したという点だと思います。出世や高級品、車などの物質的な所有ではなく、ネット環境さえあれば、自分のライフスタイルや働き方に共感してくれる人たちと、シンプルで心地よい生活を楽しむことができる。それこそが、現代における「幸せ」の新しい形になりつつあるのだと思います。
リノベは、こうした新しい価値観に基づいて、単に「物件を改装する」だけでなく、その空間をどう自分らしく使いこなすか、どう豊かな暮らしを実現するかという「自由」を提供しました。それによって、個人が自分の価値観に合った住まいを選び、共感を得た人たちと楽しい時間を共有することができる。この20年でリノベが社会にもたらした最大の成果は、まさにその「個人の豊かさ」を引き出し、新しい時代の住まい方をつくり上げたことだと言えるでしょう。

本田:今扱っている物件は築40年ほどのものが多く、すでにチャームポイントや個性が見える時代の建物です。これからは築30年未満の物件がリノベの対象になっていくというのは、非常に難しい課題です。築30年未満の物件だとまだ「古さ」の価値が出ていないし、新しさを売りにするには少し時代遅れになっている可能性もあります。
こうした築30年未満の物件は、個性的なチャームポイントが少なく、また現代のデザインや機能性と競合するのが難しい場合も多いです。このような物件のリノベには、よりクリエイティブなアプローチが求められるでしょう。特に「素材の選択」や「空間の使い方」、そして「オペレーションの工夫」が重要になってきます。
例えば、劣化を美しく感じさせる素材の選択、手をかけてメンテナンスし続けることで味わいを深めるようなデザインが必要かもしれません。鉄や木材の自然な経年変化をあえて魅力にすることで、築年数が浅い物件でも長く使われる価値を感じさせる工夫が求められるのではないでしょうか。
また、築30年未満の物件でも、「空間の柔軟性」を引き出すリノベが鍵になるかもしれません。特に、オープンなスペースや多機能な使い方ができる部屋を提案することで、現代のライフスタイルにフィットさせ、住む人の自由を引き出す場づくりが考えられるでしょう。
最も難しいのは、すでに巷にあふれる「どこにでもある」物件との差別化です。新築のような完成された美しさを目指すのではなく、むしろ「どう成長していくか」「どう活用していけるか」に焦点を当てるリノベが、これからの物件にとっては必要だと感じます。
放置される物件が増えていく中で、どうやってその物件が持つ可能性を見つけていくか、そしてその可能性を引き出すためのストーリーや共感をデザインに織り込むことが、今後の大きなテーマになってくるでしょう。

(2025年2月公開)
次回公開の記事(6)へ続く

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