築69年のビルを環境に配慮しつつ満室にするリノベ術

賃貸経営リフォーム・リノベーション

ビル再生への挑戦

環境配慮は避けられない時代の流れ
省エネ物件を探す海外企業目立つ

リノベで付加価値向上

 不動産の好景気に沸いた1980年代後半から90年代初頭のバブル期に建てられたビルが、大規模修繕や建て替えの時期を迎えている。その再生に注目が集まる中、築69年で9割が空室だったビルで環境認証を取得、さらに募集3カ月で満室となっただけでなく入居待ちが出るほどの人気ビルによみがえらせた人物がいる。主に築古ビル再生の企画・設計・施工を行うビルmo(ビルモ:東京都中央区)の吉田賀織代表取締役だ。

ビルmo(東京都中央区)
ビルリノベ専門プロデューサー 吉田賀織代表取締役


 吉田代表取締役は、元々勤めていた会社で投資用不動産の空室解消を手がけていた。その後、ビル1棟の再生事業に携わるようになり2017年に独立。現在は、大手不動産会社との共同プロジェクトへの参画や、環境認証取得のコンサルティングなど、さまざまな形でビル再生に携わっている。
 24年には、JR山手線高田馬場駅から徒歩3分の場所にあるシェアオフィス&コワーキングスペース「Colony(コロニー)#15」が入居する「U square(ユースクエア)高田馬場」の「LEED O+M(リード・オー・プラス・エム)認証」の取得をサポートした。同認証は既存建物の環境性能について、取り組みも含めて評価する国際的な認証制度の一つだ。
 「新型コロナウイルス下に多くのビルで空室が目立つようになったのを目の当たりにし、単にリノベーションしてきれいにするだけではなく、付加価値が必要だと気が付きました」と吉田代表取締役は振り返る。リノベすること自体が、建物という資源の再生や廃棄物削減など環境配慮につながっているとの考えから環境認証に着目。リノベにより環境負荷を低減し、入居者の生活の質を向上させる建物「グリーンビルディング」としての再生に取り組むようになっていった。

認証取得を阻むたばこの煙

 環境認証の取得を目指す場合は、求められる基準を満たすことだけでなく時間も必要となる。大まかな流れは次のとおり。
①3カ月ほどかけて認証取得が可能かどうかの調査と目標値を検討
②調査結果を基にリノベ工事
③竣工後、3カ月から1年間のエネルギー排出量のデータを収集し、申請
④審査期間を経て認証取得
 この四つのプロセスを見ると認証取得のハードルは高く感じるかもしれないが、吉田代表取締役をはじめとする専門家に依頼すればそれほど難しいことではない。ただ物理的に認証取得を目指せないケースがあるという。たばこの煙に関する管理、いわゆる喫煙のコントロールができない場合だ。
 例えばLEED認証の場合、たばこの煙による受動喫煙の排除を目的とした項目があり、基本的には全館禁煙が求められる。テナントの都合などで全館禁煙が難しく敷地内に喫煙施設を設置する場合は、排気口から窓までの距離といった細かな基準を満たす必要がある。全館禁煙にしたU square高田馬場は、認証取得にあたりより高い評価を得ることができた。

▲U square 高田馬場の賃貸オフィス内


 環境認証取得はオーナーにとってメリットも多い。周辺の物件との差別化や資産価値の向上、社会貢献のほか、環境に配慮した建物を求める人々の目に留まりやすくなる。しかも吉田代表取締役によれば、海外の企業は環境認証を取得したビルへの入居を希望することが多いため、選ばれやすいという。また国や自治体などでは、既存建築物の省エネルギー化や脱炭素化に向けた取り組みで利用できる補助金を用意しており、工事費を抑えることも可能だ。

まずは設備の入れ替えから

 グリーンビルディング化は世界的な流れとなっているが、無理して環境認証の取得を目指す必要はない。「築古ビルの場合、トイレや換気設備といった通常のリノベで交換・修繕が必要な場所に省エネルギーモデルを導入するだけでも数値の改善が期待できます」と吉田代表取締役は話す。そのため、工事費用も通常のリノベとあまり変わらない程度で済ませることができる。実際、前出の認証を取得した築69年のビルでさえも、グリーンビルディング化のための改修は、補助金を活用しつつビルmoの設備投資として600万円ほどの費用で済んだ。

▲リノベしてきれいになったU square 高田馬場の外観


 「グリーンビルディング化について何をしたらいいのかわからないというオーナーは多いですが、難しく考える必要はありません。古くなった設備を省エネモデルの設備に変更するリノベのついでに認証の取得を目指し、さらにそれを周囲にアピールすることで環境に配慮できる人々が集まり、建物を大事に使ってもらえるようになります。そうしたことが、より資産価値を高めていくのです」(吉田代表取締役)

(2025年7月号掲載)

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