【連載】資産価値を維持する〝省エネ〟賃貸住宅:9月号掲載

賃貸経営住宅設備・建材

第19回 燃費を考え賃貸住宅も高断熱化へ

 2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、住宅の省エネルギー性能の向上が話題になっている。これからの賃貸住宅市場においても省エネ性能向上が注目されつつある。高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役が省エネの重要性をわかりやすく解説する。

これからの住宅は 燃費性能が重要になる

 多くの人は、自動車を選ぶ際に、燃費性能を気にするのではないでしょうか。しかし、不思議なことにわが国では、「住宅の燃費性能」という概念は一般的ではありません。

 一方、環境への意識が高い欧州、特に欧州連合(EU)加盟国では、「建築物のエネルギー性能に関する指令(EPBD)」に基づき、2010年から住宅・建築物のエネルギー消費削減に関わる規制や表示制度の策定が義務付けられています。さらに国によっては住宅の販売・賃貸時に、燃費性能の表示も義務となります。

 私は、16年に欧州の省エネ住宅の視察で、新聞の不動産広告や不動産店舗の物件情報などを見て回り、とても驚きました。どんな小さな新聞の不動産広告ですら、「〇〇kWh/㎡」と対象住宅の燃費性能が表示されていたからです。

 写真1は、ドイツの不動産会社の店頭の物件広告です。赤丸の中にその建物の燃費性能を示しています。

写真1:ドイツの不動産物件広告(筆者撮影)

日本でも住宅の 燃費性能表示が開始

 日本でも24年4月から、「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」が始まりました。性能表示ラベルにより、住宅のエネルギー消費量や断熱性能を表示することが、新築の分譲住宅や賃貸住宅において努力義務として課されます。

 賃貸住宅では、新築を初めて賃貸する場合だけでなく、既築物件を再度賃貸する場合にも表示が必要です。将来的に、競合の賃貸住宅の性能が向上していくと、従来の賃貸住宅は、再賃貸時にかなり不利になることが予想されます。

 なお、この表示は「SUUMO(スーモ)」や「LIFULLHOME’S(ライフルホームズ)」など大手不動産情報ポータルサイトでの物件情報にも表示されます。消費者は、図らずも住宅の燃費性能を意識するようになっていくと思います。

高断熱化することで 経済的にはお得

(出所)北九州市「健康省エネ住宅kitaQZEH(キタキューゼッチ)概要資料」

 高気密・高断熱化をすると、建築費は高くなります。賃貸住宅の場合は、建築の費用負担者は家主であり、高気密・高断熱化による冷暖房費の削減や健康で快適な暮らしのメリットの享受者が賃借人です。それが、日本において、高気密・高断熱の賃貸住宅が普及しない大きな要因の一つだと考えられます。

 建築費の負担者と冷暖房費削減メリットの享受者が同じである戸建住宅の場合では、どの程度の性能が建築費と冷暖房費のベストバランスとなるのでしょうか。

 条件設定にもよりますが、国が定める省エネ基準(断熱等級4)よりも高断熱にすることによって費用対効果を持つ経済的なベストバランスのある断熱仕様になるというのが、専門家の共通認識です。

 北九州市では、「北九州市健康省エネ住宅」という国の推奨値をはるかに超える推奨モデルを設定し、高気密・高断熱住宅の普及促進を図っています。そのほか、パッシブデザインや壁内部の結露防止など、八つのポイントを示しています。

 そして図1は、北九州市が北九州市健康省エネ住宅において示している試算値です。北九州市の試算結果を見ると、推奨値の断熱性能UA値0・38と省エネ基準の断熱等級4(UA値0・87)では、建築費の増加によるローン価格の増額よりも冷暖房費の削減額のほうが大きいのです。25年間以上住む前提ならば、推奨値のほうが得になるとしています。

 では、集合住宅の経済的ベストバランスの断熱仕様は、戸建て住宅に比べてどのように変わるのでしょうか。集合住宅は、基本的には上下左右に隣戸があり、戸建て住宅に比べると、床面積あたりの外気に面する外壁面はかなり少なくなります。

 つまり、床面積あたりの高断熱化に伴う建築費の増加は少なく、隣戸があるため冷暖房の効率もよくなりますから、費用対効果の高いベストバランス仕様があることは間違いありません。

賃貸住宅での経済的メリットシェアするには

 ただ、前述した集合住宅の経済的ベストバランスの断熱仕様は、あくまでも建築費用負担者とメリット享受者が同じだった場合の仮定の話です。

 そこで、メリットをオーナーと賃借人がシェアする仕組みが必要になります。実際にそのような仕組みを組み込んだ賃貸住宅が登場し始めています。それについては、次回、説明します。

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。

(2024年9月号掲載)
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