VOL.5 わが国の住宅業界で再考の余地のあるシロアリ対策
「資産価値を維持する高性能住宅」とはどのようなものかについて、高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。
長期優良住宅の認定基準の 防蟻方法では不十分
2月号で、長期優良住宅認定制度の基準において、同制度がうたう75~90年の耐久性に対しては、シロアリ対策が不十分であることを説明しました。そこで、今後2回にわたって、永続性があり、人体に無害でアメリカカンザイシロアリに対応できる防蟻方法について、詳しく解説します。
日本の木造住宅 7割以上は効果が5年以内
まず、わが国での一般的な防蟻方法から説明すると、木造住宅の7~8割程度は、写真1のように合成殺虫剤を地盤面から1mまで、塗布することによる防蟻処理が行われています。ところが、合成殺虫剤は有機系の薬剤であるため、おおむね5年以内には自然に分解されてしまい、防蟻の効果がなくなるのです。
そのため、基本的に5年ごとに点検と再施工をする必要があります。ただし、竣工後は内側も外側も壁に隠れるため、防蟻処理の再施工は困難です。5年ごとの点検時には、「蟻道」(写真2参照)の有無によりシロアリの被害がないことを確認したのち、床下から施工できる範囲のみ施工するか、外部の土壌処理による防蟻を行います。

▲【写真1】一般的な合成殺虫剤による防蟻処理 (出所)日本ボレイト
ちなみに今までの被害の中心であるイエシロアリやヤマトシロアリは、地下シロアリと呼ばれ、地中の水分がないと生息できません。そのため、地中に巣があり、乾燥に弱いことから、蟻道と呼ばれる土などを塗り固めたトンネルを作るのです。シロアリは、外気や光を嫌い、いわば通勤路として、蟻道を通し、構造体を食い荒していきます。
逆にいうと地下シロアリについては、床下を点検し、蟻道がなければ、シロアリ被害はないという判断が可能です。
なぜ、5年間程度しか効果が持続しない防蟻方法が一般的なのでしょうか。
合成殺虫剤系の防蟻処理のほうが、建築時の費用が安いからです。防蟻施工事業者は、建築時の防蟻処理費用を安くする代わりに、5年ごとの再施工で利益を上げる仕組みとなっているからではないかと考えます。
永続性のある効果 人体にも無害な施工方法

▲【写真2】床下にできた蟻道 (出所)日本ボレイト
合成殺虫剤系の防蟻処理は、5年程度で効果がなくなるだけでなく、居住者の健康に悪影響を及ぼすといわれています。
防蟻処理に一般的に用いられているネオニコチノイドは、EU(欧州連合)ではミツバチの大量死の原因物質であるとして屋外使用が禁止されています。
また人体に対しては、急増しているADHD(注意欠陥・多動症)の原因物質であるという指摘もあります。
では、人体に無害かつ永続的な防蟻方法はないのでしょうか。
米国で一般的な「ホウ酸」による防蟻処理や、コシイプレザービング(大阪市)が製造する「緑の柱」といわれる銅化合物などの薬剤を高圧で加圧注入した木材ならば、人体には無害で、防蟻効果も永続性があります。
これらを採用する工務店やハウスメーカーは、少しずつ増えていますが、なぜか、まだまだ少数派なのが現状です。
中長期的な蟻害リスク低減による資産価値の維持や、再施工に伴う費用負担を鑑みると、家主がこれらの防蟻方法を選択することが合理的だと考えます。

▲【写真3】ホウ酸処理の様子 (出所)日本ボレイト
ホウ酸を使用した 処理をすすめる理由
ホウ酸と緑の柱を比較すると、コスト面では、ホウ酸処理のほうが有利なようです。さらに次回説明するアメリカカンザイシロアリ対策を考えると、ホウ酸処理がおすすめです。
ホウ酸は、ネズミやゴキブリ対策に古くから使われてきた化合物です。この防蟻処理は、水溶液を木に塗布します。ホウ酸は無機化合物なので乾燥後は揮発しません。そのため防蟻効果にも永続性があります。
そしてホウ酸は、腎臓を持つ哺乳類などの場合、体内に入っても尿として排出されほぼ無害といえます。ただ腎臓を持たないシロアリやゴキブリの場合は、食べると消化できずに死んでしまうので防蟻の効果が発揮されます。
建設時のコストは、合成殺虫剤系の処理に比べると高くなりますが、その後の再施工に伴うコストを考えると、経済的にも有利だといえます。
次回は、被害が深刻になりつつある外来種のアメリカカンザイシロアリの生態と防蟻処理について説明します。
住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。
(2025年 3月号掲載)
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