【連載】パリの賃貸不動産事情:最終回

賃貸経営住宅設備・建材

パリの不動産とインテリア

 ボンジュール、坂田夏水です。今回は最終回です。パリの不動産とインテリアの大切な関係について説明します。

内装にかける情熱

 パリと日本の不動産への考え方の違いは、もちろん不動産価格や建築物の構造などですが、大きいのはパリの家主の空間の豊かさにかける熱意なのではないかと私は思っています。パリの建物は古く実用的ではないものの、あの美しさと心地よさはどこからくるのでしょう。

▲天井の飾りや暖炉の装飾が美しい

 まず内装に使用する建材と室内の装飾が違うのです。古くて大きな重いドアを開けると目の前に広がる住民専用の中庭。大理石で覆われた床の階段を上がった先にある部屋の床には、無垢の木のフローリングが敷かれています。木製の内装ドアには真ちゅうのドアノブが付いており、壁に洗練された壁紙が貼られ、天井にモールの飾りが施されていることもあります。さらに暖炉があったり、大きな鏡やシャンデリアが付いていたりする物件もあるのです。

 そしてハイグレードな物件になるほど、内装の仕上げには良いものが使われており、入居後はその内装材をメンテナンスして長く使い続けます。床が汚れると、無垢の木を使用しているためフローリングの研ぎ出しを行ってきれいにし、壁にはペイントをします。

 日本でよく行われているような、退去後の原状回復のための床や壁紙の貼り替えは行っていないのです。最近は日本の賃貸物件で、洗面所やトイレでプラスチックの仕様のものをよく見かけるようになりましたが、日本におけるビニールとプラスチックの内装材の割安さには驚かされます。

▲無垢のフレンチヘリンボーンは床材の定番

コーディネートを考える

 さらに建材の違いだけではありません。パリの物件には、最初から家具が配置され、壁面装飾が施されていることがよくあります。賃貸物件でも、入居前にそういった対応をしておくのは、内覧の時の見栄えを重視しているからでしょう。何もない空間よりも、家具が程よく配置されているほうが良い家に見えるものです。

 オーナーが選んだ家具やインテリアであることが多いですが、専門のデザイナーに依頼し、インテリアのトータルコーディネートを施す場合もあります。

▲インテリアデザイナーが内装を手がけた物件

▲階段の手すりにも装飾が施されている

マナーとして家を整える

 こうした状況がどこから生まれているのかといえば、生活習慣や文化の違いからなのではないでしょうか。

 パリでは、家は人と共に時間を過ごすための空間で、家族が幸せに暮らすための器であり、豊かな人生を映し出すものだと考えられているのです。家を美しく保つことは、身だしなみを整えることがマナーだということと同じように、パリの人々にとっては大切なことです。

 そして、ゲストを家に招き快適に過ごしてもらう「家たしなみ」が、子どもの頃からマナーとして身に付くよう習慣付けられているように感じます。

 不動産の経営は、考えるべきことも多く容易ではないと思いますが、家主とは、そこに住まい対価を支払う住人のために、より良い生活環境の構築と、持続可能なまちづくりを目指して、社会を担っていく人なのではないでしょうか。

 日本国内では、DIYによって改装されたり、古民家の趣を生かしたりした賃貸物件が増えているなど、新しい動きがありますが、文化の違いはあれども日本でも家主と借主が共に、物件内のインテリアへの興味がより深まるといいと思っています。

 1年間ありがとうございました。

建材紹介

パリにいる坂田夏水とオンラインでつなぎ、インテリアの相談ができるサービスです。コーディネートの提案に加え、おすすめの柄や色、インテリアの雑貨などの提案が可能です。
インターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」より詳細をご覧ください。

 

夏水組(東京都武蔵野市)
坂田夏水 代表

【プロフィール】
1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、インターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」の運営などを手がける。22 年よりパリで日本の建材店「BOLANDO(ボランドウ)」の運営を開始、現在パリ在住。

(2025年 4月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら