建物の構造から考える土地活用、鉄骨造アパートのメリット・デメリット

賃貸経営住宅設備・建材

 土地活用の方法として挙げられる賃貸住宅経営。賃貸住宅というと鉄骨造の建物を思い浮かべる人が多いかもしれません。賃貸住宅において、鉄骨造は木造に次いで多く採用されています。

 国土交通省の「建築着工統計調査報告(令和6年計分)」によると、2024年に着工した賃貸住宅(貸家)34万2092戸のうち、約21%にあたる7万2828戸が鉄骨造でした。

 ここでは鉄骨造の基礎知識を紹介するとともに、賃貸住宅を鉄骨造で建てる際のメリットとデメリットを解説します。

 

鉄骨造の種類と特徴をおさらい

軽量鉄骨造と重量鉄骨造の違い

 鉄骨造とは、柱や梁など主要な骨組みに鉄骨を用いて建てられる構造をいいます。使用する鋼材の厚さが6mm未満のものを軽量鉄骨造、6mm以上のものを重量鉄骨造と呼びます。なお、これは一般的に定着して使われている呼称であり、建築基準法などで定義されているものではありません。

 軽量鉄骨造は、プレハブメーカーなどが多く採用する構造で、部材が軽く扱いやすいのが特徴です。箱型のユニットを工場で生産して現場で組み上げるユニット工法の技術も進んでおり、建築工期が短く、品質のばらつきが少ない点も魅力といえます。

 一方、重量鉄骨造はH形鋼など厚みのある鋼材を使用し、柱と梁をボルトや溶接で強固に接合します。吹き抜けや広いリビングなどといった大空間を確保しやすく、耐震性、耐久性に優れているため、3階建て以上の中規模アパートや店舗併用住宅などで採用されるケースが多いです。

法定耐用年数は19~34年、実際の寿命はさらに長い

 国税庁によれば、鉄骨造の法定耐用年数は骨格材の厚さを基準に以下のように分類されています。

細目 耐用年数
 骨格材厚3mm以下 19年
 骨格材厚3~4mm 27年
 骨格材厚4mm超 34年

(出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」を基に地主と家主で作成)

 この耐用年数はあくまで減価償却費を算出するための会計上の指標です。実際の構造寿命は、防錆処理や定期的な塗装・点検によって、60年以上使い続けることも可能だといわれています。鋼材の錆を防ぎ腐食リスクを最小限に抑えることができる代表的な表面処理方法として、溶融亜鉛めっき処理があります。

 

鉄骨造アパートの最大のメリットは「構造強度」と「空間の自由度」

鉄の強さが生む高い耐震性

 鉄骨は引張り強度・靭性(しなやかさ)に優れ、地震揺れを吸収する特性を持ちます。そのため、地震発生時にほかの構造に比べて揺れを感じやすいものの構造体自体は変形がしにくく、倒壊リスクが低いのが特徴です。

 また、鉄骨造はRC造に比べて軽量なため地盤への負担が小さく、基礎工事にかかるコストを抑えられるケースもあります。

支柱と支柱の間隔を広く取れる鉄骨造は自由設計に強い

 強度が高い鉄骨造は、木造では難しい柱の少ない大空間をつくりやすいのが特徴です。ガレージ併用賃貸やメゾネットタイプなど、高付加価値を付けて差別化しやすい間取りにも対応しやすいです。またデザインの自由度が高い点も魅力となっています。

コストは木造より高く、RC造より低い

 建築コストで見ると、鉄骨造は木造よりも高い一方、RC造よりは抑えやすいといえます。

 国交省の建築着工統計調査報告によると、1㎡あたりの工事費予定額は次の通りです。

 ● 主な構造別1㎡あたり工事費予定額

構造 予定額
 木造 20万円
 鉄骨造 31万円
 RC造 32万円

(出典:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和6年計分)」を基に地主と家主で作成)

 鉄骨造は溶接・組立に専門の職人が必要となるため人工にんく費がかかります。一方で同一規格による工場製作で一定の品質と現場工期の短縮が見込めます。

デメリットは「結露」と「防錆」、ただし対策可能

熱橋(ヒートブリッジ)による結露に注意

 鉄は熱の伝導率が高いため、鉄骨造の建物では鉄骨を通じて外気温が室内に影響しやすい性質があります。熱の橋渡しをするような現象を「熱橋ねっきょう」と呼びます。このときの鉄骨と断熱材の温度差により発生するのが内部結露です。

 
内部結露は、構造体の腐食やカビのリスクを高めます。対策としては、外張り断熱の採用や、窓・サッシ、玄関ドアなどの熱橋が発生しやすい部分の断熱性の能強化が有効です。

 

錆び対策が寿命を左右する

 鉄骨の大敵は「錆」です。外気に触れる箇所は必ず防錆塗装溶融亜鉛めっき処理を行い、10〜15年ごとに定期な再塗装が理想です。特に大気中の塩分濃度が高い沿岸部の地域では腐食スピードが早いため、仕様を選定する段階で防錆グレードを確認ておきしましょう。

鉄骨造アパートの遮音性と断熱性

 構造体が振動しにくいため、木造よりは遮音性は高めです。ただし、壁や外壁は木造と同じ建材が使われることが多く、大きな差があるわけではありません。木造アパートと同様、床や壁に遮音効果の高い建材を用いることで弱点を補うことができます。

 断熱性能についても、外壁の断熱材や開口部の性能に左右されます。外断熱と高断熱サッシを組み合わせることで、RC造並みの快適性も実現可能です。

鉄骨造のメリット・デメリットを理解して、将来を見据えた土地活用を

 鉄骨造は、強度・耐震性・デザインの自由度に優れたバランスのよい構造です。

 木造よりコストはかかるものの、長寿命で修繕や用途変更がしやすい点からも、長期にわたって安定した賃貸経営を目指すオーナーには適しています。

 一方で、防錆や結露への対策といった維持管理コストを前提にした計画が重要になります。計画段階で信頼できる施工会社と構造・断熱・遮音環境を含めて建築内容を細かく検討することが、入居者満足と資産価値の維持につながるでしょう。

(2025年10月29日更新)

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