Focus ~この人に聞く~:地主だからこそのまちづくり

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地縁が地域の価値を高める
地主だからこそできるまちづくり

日本には、創業100年以上の企業が4万社以上存在する。その中には、数世代にわたって地元地域に根差している企業も多くある。こういった企業の地域との関わりを研究する、静岡県立大学の落合康裕教授に話を聞いた。

静岡県立大学
落合康裕教授(51)

――地域に根差す企業の例を教えてください。

 大和川酒造店(福島県喜多方市)が一例です。地元で収穫した米と伏流水で本格的な酒造りを行い、200年以上続いてきました。同社は、地元の土地から資源という恩恵を受け、また、地元の魅力を上げるための取り組みを行っています。例えば、明治・大正期に、地元の鉄道や電話という社会インフラを整備するために、大和川酒造店の当主を含めた地元の名士たちがお金を出し合いました。現9代目当主も、事業がうまくいかずに売りに出された地元企業の物件を買い取り、仲間たちで運営するワイナリーの事務所にするなど、再度、物件に魅力を吹き込んでいます。地元に縁がある老舗企業だからこそ、地域の協力の下、地域に必要とされる魅力的なスポットにすることができたのではないでしょうか。

――企業も地域も互いに支え合っているのですね。

 ほかにも、静岡県の物流大手の鈴与(静岡市)も地域に根差している企業の一つです。鈴与の歴代当主は、清水港の築港に貢献してきました。清水港の発展は清水地区の経済を活性化させることにつながります。その結果、多くの地域企業に恩恵をもたらしました。こういった、互いに与え合う関係が事業者と地域とでつくられると、その事業者は地域での永続性を高めることができると思います。

――地域との関わりはその場所の価値にも影響しますか。

 需要と供給で決まる価格だけが不動産の価値ではありません。地縁ができれば価格以上の価値を引き出せるし、そうでなければその場所で事業を存続させるのは難しいと思います。土地や空き家にも同じことがいえます。例えば、高級住宅街に価値があるのはその地域を愛する人が多く住んでいるからでしょう。住宅街という共有財産を住民が守ろうとする意識が高いことが、価値の維持・向上につながっているのだと思います。さらに、こういった住民の意識の高まりは、その地域の秩序を形成することにもつながります。地域の恩恵を受けるためには、地域に貢献すべきだと考えます。

――地主も代々土地と深く関わっています。

 その土地で事業を行って暮らしてきた人は、周囲との関係性も深く、地域の衰退はすなわち自身の事業にも負の影響を与えます。土地から恩恵を受けていることにより、土地を守ろうとする責任が強くなり、その結果、地域に合った発展をもたらす可能性が高くなるのだと思います。地元に根を張り代々築いた地縁がある地主だからこそ、日々の活動を生かすことができ、次世代に残したい街をつくれるのではないでしょうか。(五林麻美)

落合康裕教授プロフィール:静岡県立大学教授。博士(経営学)。一般社団法人事業承継学会常務理事。「ファミリービジネス白書」企画編集委員長を務める。著書に「事業承継のジレンマ」「事業承継の経営学」(ともに白桃書房)など。複数のビジネススクールにて後継者教育に従事。
(2024年9月号掲載)

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