100年先の未来をつくるための活動

不動産オーナーの常識を超えた活動を行う人物がいる。まめくらし(東京都練馬区)の青木純代表だ。自身の賃貸経営にとどまらず、スクール「大家の学校」の主宰、他社の賃貸住宅のコミュニティー管理、飲食店の経営、さらに公道を暮らしの場に変えるプロジェクトの運営など、次々に手がけてきた。4月に著書「パブリックライフ:人とまちが育つ共同住宅・飲食店・公園・ストリート」を上梓した青木代表に大家の学校と著書のことを中心に話を聞いた。

まめくらし 青木純代表(48)

大家の学校を8年主宰

 「今期の大家の学校はすごいよ。受講者が過去最高。しかも女性が半数近くになった」。こう感慨深げに青木代表は話す。

 大家の学校とは、青木代表が2016年に始めた、「大家」を一つの職能として暮らしをつくることを学ぶ学校だ。受講生は賃貸経営や不動産、まちづくりに携わるすべての人。講師も家主に限らず、カフェやシェアオフィス、保育園の運営者らが担当し、5年、10年かけて築き上げてきた経験を凝縮した場づくりの手法をレクチャーする。

 24年は5月19日に11期が開校。総受講生数は38人でそのうち女性が18人を占める。さらに、現役学生もいるというのだから、驚きだ。11期については、「朝日新聞」に青木代表の取り組みを紹介する記事が掲載された影響もあるが、基本的に受講者は口コミで知って申し込む人が多いようだ。

 「今回『個性的であろう』ということをサイトに書いているんだけど、講師の選定基準も、過去のマーケティングにすがらずに新しく領域を切り開いていく人。いわば業界の異端児。そういう人たちには、やっぱりそれぞれに注目しているファンがいて結構集まってくる」(青木代表)。そんな学校だからこそ、これまで8年間で累計263人が受講してきた。

 受講料は「ベーシックコース」(全講義を受講)が19万8000円(税込み)で、決して安くない。それでも、学びたいと全国から受講生が集まるのだ。

▲大家の学校の受講生との記念写真 

親と違う経営求める子供

 8年間大家の学校を運営してきたが、受講者の属性は変化しているという。当初は家主というよりは、これから場づくりに関わりたいという人が多かった。ところが、最近増えてきたのは、親が所有している不動産を自身も継ごうと思っている人。

 「代替わりのタイミングで『そろそろ自分が』と考える子ども世代が受講するケースが増えた。団塊の世代が80歳前後になってきて、子ども世代で考え始める人が増えているのだと思う。ただ団塊の世代の親たちは、元気があってすべて自分でやってきたところがあるから継ごうとしてもわからない。その一方で、管理会社に丸投げするのもどうかな、と思っている人が受講しているようだ」と青木代表は話す。

 大家の学校では、親から事業を承継して、次の代の人たちに面白がりながら、そして夢を持って取り組んでほしいと考えて運営しているという。受講生が自分なりの未来を見つけるきっかけを手に入れられる場所となっているのだ。

 子ども世代が受講後、親と違うことをやろうとすると、当然ハレーションも起きる。ただ、それは一つのプロセス。ハレーションを起こしながらも、親が少しずつ子どもたちのやりたいことを認めてくれるケースが散見されるという。

 青木代表は、4月に「パブリックライフ:人とまちが育つ共同住宅・飲食店・公園・ストリート」を出版した。著書には、これまでの「大家」としての取り組み、そして、そこから活動を増やし、拡大した経緯が、彼の育った背景から書かれている。

▲4月に出版した青木代表の著書

 「パブリックライフ」という言葉自体は、あまり聞き慣れないだろう。豊かな都市空間の日常をどうつくり出すか、著書を読むと、彼がこれまで行ってきたすべてがこの言葉に集約されていることがわかる。住人と家主が共同で営む賃貸住宅「青豆ハウス」、地域の食生活を支える飲食店「都電テーブル」、まち再生の起点となった「南池袋公園」、前述の「大家の学校」などだ。

パブリックライフへの思い

 青木代表は人との関係性について「湯加減」という言葉をよく使う。これは彼の経験から得たものだ。何かを始めようとすると、どうしても自身が熱くなりすぎてうまくいかなかったこともあったという。だから1人で頑張りすぎずに、住む人とのコミュニケーションを信じて活動しているという。いろいろな人の価値観がそれぞれの主語になっているプロジェクトは、結果として「いい湯加減」に整えられて、「あの場所の温度感が好き」とか、「あそこに行くと元気がもらえる」と思える場所になる。そういう場を提供できる家主が運営する賃貸住宅だから住みたいと部屋を選ぶ人が増えているという。

 幅広く活動してきた青木代表は、「100年先の未来をつくりたい。自分がいなくなった後、まちがどうなっているのかが気になる。僕が建てた青豆ハウスは、木造の賃貸住宅だから建物自体は100年後にはなくなっているかもしれない。ただ、その場所に青豆ハウスがあったことでまちの文化ができたなら、その文化は残る。夢を大家さんたちには持ってもらいたい」と温かい目で語った。

(2024年9月号掲載)

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