「尊厳ある」住まいを日本で広める
安心できる住居が女性の自立促進
シングルマザーや若年女性らの支援を行う認定NPO法人女性と子ども支援センターウィメンズネット・こうべ(神戸市)が、困難を抱える女性やその子どもたち向けの住居「六甲ウィメンズハウス」をオープンした。住まいが女性の自立に与える影響について正井禮子代表理事に聞いた。
認定NPO法人女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ(神戸市)
正井禮子代表理事

――住居の確保が困難な女性が多く存在します。
日本のシングルマザーの平均年収は240万円といわれており、半数近くが貧困状態にあります。低収入のうえ保証人もいないケースが多く、しかも子連れとなると、住宅を見つけるのは大変です。ようやく見つかったとしても、狭かったり暗かったりと住環境が悪い家を紹介されることも少なくありません。そのため、居住支援活動を通して「ここにしか住めない」ではなく「ここに住みたい」と思うことができる家を造りたいと考えました。
――住環境は支援を受ける側に大きな影響を与えるのですね。
安心できる住まいがあるからこそ、心の回復や生活の立て直しができます。諸外国では「ハウジングライツ」つまり誰もが安心・安全に尊厳を持って暮らせる住まいを得る権利があるという考え方が浸透しています。雨露をしのぐ屋根があっても、DVや虐待などで安心・安全が確保されない状況は、ホームレスと見なされ、国が住まいを提供する義務があるとのこと。日本でも、NPOや民間企業が連携し、尊厳ある暮らしができる住宅を提供する取り組みが始まりつつあります。
――生活共同組合コープこうべ(同)の所有する遊休不動産が提供されました。
六甲ウィメンズハウスの構想は、14年前に視察で訪れたデンマークで見た女性と子ども向けハウスがモデルになっています。外観は古い建物でしたが、内部はデザイナーズマンションのように美しく、広いリビングやキッズルームがありました。帰国後、日本でも同じような住まいを造りたいと考え、ようやく今回、コープこうべから築50年の元女子寮が提供されました。空き家となって30年以上経っていますが、耐震性は十分あったため躯体はそのまま使用しました。国土交通省の「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」の申請が通り、当初予定していた改修費の3分の2、およそ1億円の補助金を受けることができました。
――遊休不動産活用の新たなモデルとなりそうです。
民間事業者による空きビルや旧社員寮などの、新たな活用モデルになり得ると考えます。実際、六甲ウィメンズハウスのオープン後、全国各地からNPOや企業、地方自治体の議員たちが視察に訪れています。各地で取り組みを展開するには不動産が不可欠です。ハウジングライツの考えに共感できる家主と支援団体がうまく連携することが必要になってくるでしょう。
(長谷川律佳)
1992年女性のエンパワーメントを目指し、ウィメンズネット・こうべを発足。95年阪神淡路大震災をきっかけに女性支援ネットワークを立ち上げ、以後、30年にわたり困難に直面する女性たちの緊急一時保護や自立支援を行う。
(2024年10月号掲載)
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