【連載】不動産に強い士業が教える14の知見:12月号

賃貸経営空室対策

不動産会社と不動産に詳しい士業などの専門家を擁する一般社団法人不動産ビジネス専門家協会(東京都千代田区)。所属する14人の士業に知っておくべき情報を聞く。

第1回 人口減少時代における空室対策

空室の根本原因を探る

 「空室対策」とインターネットで検索すれば、さまざまなテクニックを知ることができます。私の元にも「頑張って調べて空室対策に取り組んでいるのに入居者が決まらない…」と悩む家主からの相談は多数ありました。なぜ成果に結び付かないのでしょうか。

 空室対策は病気の治療と似ています。「病気に対する薬・手術=空室対策」であり、まずは「病気の原因=空室の原因」を知ることから始める必要があります。地域の特性や建物自体の大きな問題が関係する場合もありますが、私の元に相談に来た人の多くの空室原因はかなり初歩的なものでした。

 例えば、「ネット上に掲載されていない」「バス・トイレ別なのに情報サイトではバス・トイレ一緒の扱いになっている」「現地に行くと下水の臭いが充満し、虫の死骸が転がっている」などです。これでは空室対策を頑張っても、残念ながら結果は出ません。先に内見者が不快に感じる原因や根本的な問題を解消してから、空室対策を検討します。

空室対策の五つのポイント

 空室対策は多岐にわたりますが、大きく分けて「金額」「状態」「表現」「条件」「営業」の五つに分類できます。それぞれの対策例を一部紹介します。

①金額
 賃料設定や敷金・礼金などの金銭的な諸条件が相場と異なる場合は修正します。まずは賃料相場を調べてみましょう。
●「SUUMO(スーモ)」「athome(アットホーム)」などのポータルサイトで同条件の物件を検索してみる。
●「ポルティ賃料査定」「スマサテ」などのAI(人工知能)賃料査定を行う。
●不動産会社に率直な相場観を聞いてみる。
 敷金や礼金の設定も近隣の類似物件の相場を調べ、相場に合わせるか、差別化のために金額を下げるかを検討します。

②状態
 内見時の印象を良くするための方法を実施します。
●空室時も電気を通し、照明器具を設置しておく。
●一部だけ壁紙の色を変える「アクセントクロス」を導入する。
●室内に家具や観葉植物を設置し「ホームステージング」を行う。
 なお、やりすぎは金銭と労力の負担が大きいうえ、逆効果になる可能性もあるため、ほどほどにしておきましょう。

③表現
 入居希望者が物件を見つける方法は「ネットで検索」「不動産会社からの紹介」の2択です。不動産会社も事業者用のサイトで検索します。そのためどちらも、検索しても出てこない、写真はあるが魅力を感じないなどの場合は致命的です。
●広角機能付きのスマートフォンで撮影する。
●撮影時は電球色(オレンジ)だと特に水回りが黄ばんで不潔に写るため、昼白色(白)の電球や照明に交換する。
●募集図面に写真を多く入れる。

▲(左:NG)画角が狭い、電球色の電球、縦ラインが合っていない、撮影者が鏡に映っている、(右:OK)広角、昼白色の電球、縦ラインが合っている

④条件
 いかに検索で表示させるかが、空室対策には欠かせません。
●「SUUMO」でエリア、または沿線を入力した後に出てくる「人気のこだわり条件」「さらに詳しいこだわり条件」にどんな条件があるかを見る。
●なるべく手間と費用をかけずに増やせそうな条件をリストアップする。
●駐輪場がなければスペースを確保する、インターホンがなければ後付けのインターホンを設置するといった、比較的簡単にできることからやってみる。

⑤営業
 不動産会社といかに協力し合えるかが空室対策のカギです。これまで説明したような対策を相談しても、根拠なく「景気が悪いから仕方ない」「もうしばらく様子を見ましょう」と対応に否定的な場合は、別の不動産会社を探すことも一案です。また販促ツールを家主が用意する方法もあります。例えば、物件の魅力や事前に知っておいてもらいたい注意点、近隣の飲食店紹介などを記した資料を空室に置いておくだけでも、不動産会社は営業しやすくなり、内見者が物件を選ぶうえでの重要な判断材料になります。

原因を知り解決策を練る

 五つのポイントの説明は以上です。ネットで検索して出てきた方法を手当たり次第に実施したり「ネット使用料無料」「リノベーション工事」などの大きな支出をしたりと、頑張っていても空室が決まらないという切ない結果の原因は、残念ながら、本当の空室原因に対して見当違いな対策を行っていることです。

 「空室対策」は「空室原因の解決策」です。「賃料が相場より高い」という問題には、相場を知り条件を変更すること。「写真がなく内見する気にならない」という問題には、いい写真を撮影・加工して掲載することが、解決策になります。

 逆説的に考えれば、空室対策のポイントと事例を知ることは、空室原因を知ることにつながります。ポイントを絞らないまま原因を探すより、前述の五つのポイントごとに検討して、絞り込んだほうが、回り道をせずに最適解にたどり着きやすくなります。

 まずはネットや本で紹介されている空室対策と、自身が実施してきた空室対策を五つのポイントに分類し、それは何の問題を解消するための方法なのかを考えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

【今回の解説】
品川目黒不動産管理(東京都品川区)
宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大氏

「賃貸」に特化した専門家として、賃貸管理を通じて空室対策や収支改善、大規模修繕、相続対策など、賃貸経営に関わることを全面的にサポート。業界紙での執筆、セミナー講師、新築プロジェクトへの意見提供など、賃貸を主軸に幅広く活動する。

(2024年12月号掲載)

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