第42回 変わりゆく損保業界のスタンスについて考える②
水災に対する認識を改める必要性②
2024年に日本列島に上陸した台風の数は、平年並みといわれる2回でした(24年11月15日時点)。それにもかかわらず、線状降水帯の発生が認められた日数は、日本全国で合計20日近くあったそうです。
台風が上陸しやすいとされるシーズンは、過去の記録ではほぼ7月から9月に限定されています。一方で線状降水帯はその限りではなく、冬季を除いてほぼ一年中、しかも地域を問わず発生しており、甚大な水災被害をもたらしています。
このほか、近年はゲリラ豪雨や降雹こうひょうによる被害も、季節や地域を問わず多く発生しています。
土砂災害で補償されるケースと補償されないケース
線状降水帯が発生すると、広域にわたって多量の雨が長時間降り続く傾向にあります。時には数日間も雨がやまないこともあるため、水分を多量に含んだ土地が次第に脆弱ぜいじゃくになり、傾斜地などでは地滑りや地盤沈下が発生しやすくなります。
火災保険では地滑り・地盤沈下は土地の損害という理由から補償の対象にはなっていません。またこれらによって建物に生じた傾斜損害・破損なども保険約款では水災によるものとは認められず、免責となっています。
ただし土砂崩れによって建物に土砂が流入して倒壊、破損、汚損した場合は水災によるものとして補償の対象になります。この違いは、建物に土砂との接触があったのか、建物の基礎の部分に傾きや沈下、ズレなどの現象が起きているかどうかなどがポイントとなります。
不安定な大気の状態がもたらす 降雹の深刻な被害
水災と並んで近年深刻な被害を及ぼしているのが、降雹による家屋などの破損です。大気の状態が不安定になると、ゲリラ豪雨と共に発生することが多く、時にはゴルフボール大の降雹も観測されています。全国的に建物の屋根、外壁、窓ガラス、その他の付属物が破損する被害が多数発生しています。
これら降雹による損害は、総合補償型火災保険の基本補償項目(主契約)で補償の対象となっていますが、保険金が支払われなかった事例も散見されています。
火災保険の普通保険約款「保険金を支払わない損害」には、「外観上の損傷、汚損」と記載されています。外観上の損傷、汚損とは、以下の状態を指します。「保険の対象の擦り傷、かき傷、塗料の剥がれ落ち、ゆがみ、たわみ、へこみ、その他外観上の損傷または汚損(※)であって、保険の対象ごとに、その保険の対象が有する機能の喪失または低下を伴わない損害」
(※落書きを含む)
つまり、屋根や外壁に降雹によるゆがみ、へこみなどの打撃痕が生じても、雨漏りが発生するなどの機能上の喪失や低下が認められない場合には補償の対象にはなりません。
経年劣化、老朽化と降雹被害との因果関係
経年劣化、老朽化が著しい屋根や外壁に降雹があり、破損被害が拡大してしまった場合なども、免責または減額の対象となります。
損害鑑定人は、このような経年劣化、老朽化と損害の因果関係に注視して損害鑑定を行っています。過去の「グーグルストリートビュー」画像の検証も行っています。つまり、修繕履歴は重要な判断材料となるのです。老朽化した建物の修繕を怠っていた、あるいは破損した状態を放置していた場合などでは、保険金の支払いが受けられないこともあることを心得ておくべきでしょう。
【保険の豆知識】
火災保険の免責条項
普通保険約款には、「保険金を支払わない場合」という条文が必ず記載されています。これには、一見保険で補償されるのではないかと誤認するような事項も多くあり、注意が必要です。
【誤認されそうな免責事項の例】
・地滑り、地盤沈下などの土地の損害
・風、雨、雪、雹、砂塵などの吹き込み、浸み込み、漏れ込み
・性質による蒸れ、変色、変質、さび、かび、腐敗、腐食、浸食、キャビテーション、ひび割れ(※ガラスの熱割れを除く)、剥がれ、肌落ち、発酵、自然発熱その他類似の事由
・保険の対象に生じた、擦り傷、かき傷、塗料の剥がれ、落書き、ゆがみ、たわみ、へこみ、その他の単なる外観上の損傷または汚損で、機能の喪失または低下を伴わない損害
・屋根材または樋といにゆがみ、たわみ、へこみ、ひび割れ、欠け、反り、浮き上がり、ずれ、波打ち、くぎ浮き、その他類似の事由に起因して発生した損害
火災保険の免責条項
普通保険約款には、「保険金を支払わない場合」という条文が必ず記載されています。これには、一見保険で補償されるのではないかと誤認するような事項も多くあり、注意が必要です。
【誤認されそうな免責事項の例】
・地滑り、地盤沈下などの土地の損害
・風、雨、雪、雹、砂塵などの吹き込み、浸み込み、漏れ込み
・性質による蒸れ、変色、変質、さび、かび、腐敗、腐食、浸食、キャビテーション、ひび割れ(※ガラスの熱割れを除く)、剥がれ、肌落ち、発酵、自然発熱その他類似の事由
・保険の対象に生じた、擦り傷、かき傷、塗料の剥がれ、落書き、ゆがみ、たわみ、へこみ、その他の単なる外観上の損傷または汚損で、機能の喪失または低下を伴わない損害
・屋根材または樋といにゆがみ、たわみ、へこみ、ひび割れ、欠け、反り、浮き上がり、ずれ、波打ち、くぎ浮き、その他類似の事由に起因して発生した損害
【解説】
保険ヴィレッジ 代表取締役 斎藤慎治氏
1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。
(2025年 2月号掲載)
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