【連載】欧米に学ぶ 土地活用のスタンダード:1回

賃貸経営不動産投資

地主が地主であり続けるために ⽇本型⼟地活⽤の現状

はじめに

 私はいわゆる「不動産屋」ではありません。先代から約60年間続くタイル卸売事業者の2代目として建設産業に携わる傍ら、自社所有の賃貸物件の建築や管理を約30年間行ってきました。

 幼少期から、私はアメリカの住宅にある豊かさ、美しさ、ダイナミックさに不思議と引かれて育ちました。当時その理由はよくわかりませんでしたが、やがてその憧れは「豊かな生活を実現できる住宅をつくる」という明確な目標に変わり、当社の事業性とも結び付いていきます。そして目標達成のため、北米で評価の高い40を超える数の住宅地を7年間にわたり視察しました。

 その時に感じたのは、アメリカの住環境の豊かさは住宅単体だけでなく、金融、資産、教育、地域社会、人々の生活といった多岐にわたる分野が、長い歴史の中で築かれた集積の上に成り立っているということです。幼少期の憧れには、極めて理にかなった理由と歴史に裏付けられた背景があることを知りました。

 この学びを基に当社は、単一的な「住宅」ではなく、統一感のある「住宅地」という単位での供給を開始しています。まち全体をデザインコードで規制することで住宅の価値を維持・向上させる、この米国型の住宅地開発こそ「豊かな生活を実現する住宅づくり」の解であると確信しています。この住宅地についての詳細は、連載が進む中でまた記述することになると思います。

日本に足りない「学び」と「変革」

 さて、そんな私がなぜ本誌において連載を書かせていただいているかといいますと、一つは私自身が「土地・建物(資産)の相続」「事業継承」の経験があるということ。そしてもう一つは、⽶国の住宅販売のスタンダードや英国の⼟地活用⽅法の“翻訳”が、⽇本の地主の皆さんにとって今後有効に活⽤できる⼿法となるのではないかと考えたからです。

 内容は、欧⽶での実例とその遍歴をはじめ日本で対応可能な⽅法・理論が中⼼となりますが、大きく分けて「⼟地活⽤」「資産価値を向上させる仕組み」という二つのカテゴリーで構成されます。特に実⾏項⽬が多岐にわたる後者は、専⾨的な知識に頼りつつ、すべてを実施しないと期待する効果を得ることができません。

 もちろん、こういった欧米の土地活用に関する文献や資料は一定数存在しますし、これに携わる専⾨家も過去にいたことでしょう。それにもかかわらず、これまで⽇本が同様の土地活用を行うことができなかった一番の理由は、不動産業界と住宅業界が安易な⽅法で⾃社の利益増⼤を求めたためです。欧⽶が実践してきた資産活⽤の歴史を真摯(しんし)に学ばず、しっかりと取り組んで来なかったために、地主をはじめ住宅を購⼊する国⺠までもが今なお、資産を失ってしまっている現状を生んでいます。

 さらには⾚信号を皆で渡り続けているかのごとく、資産を失ってしまっていることにすら気付いていない、または気付いていても⽬をつぶり“ないもの”としてしまっているのです。

▲美しい景観が土地の価値上昇に付与する、欧米の住宅地

地主の誇りと未来を守るには

 地主が地主であり続けるということは、地主にとって永遠のテーマかと思います。しかし、「3代で資産を失う」という言葉のゆえんどおり、おおよそ1代の相続で⾦融と不動産を合わせた総資産のうちの約3分の1を確実に失うのが、日本の相続の現状となっています。

 無論、一般的には地主の資金調達力に基づいた⽅法を用いて、いわゆる「相続対策」が行われているわけですが、これらの⽅法は高度経済成長期以前というはるか昔から続く旧態依然とした状態を脱していません。税理士、金融機関、ゼネコン、不動産事業者のいずれも、今なおこの方法しか持ち合わせておらず、変化の兆しが全く見られないのが現状です。さらに“海外から学ぶ”という姿勢を失った日本では、新しい方法が生まれる気配すら感じられません。

 相続には、土地の歴史や先人たちの思いを次世代へつないでいくという、極めて重要な役割が含まれているはずです。この原理原則を改めて見つめ直すと同時に、本連載をきっかけに「欧米に倣う土地活用」が日本における新たな選択肢となることを願い、拙筆ながら伝えていきます。

 次回は、日本と欧米の実情比較と欧米型の土地活用の歴史・背景について紹介します。

ボウクス(川崎市)
内海健太郎 代表取締役

1967年、川崎市生まれ。92 年、父が経営する建材卸売事業者の内海資材(現ボウクス)に入社。94 年にキャン’エンタープライゼズ設立。2006 年、内海資材を事業継承し、ボウクスに社名変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

(2025年 4月号掲載)

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