地主の挑戦:まちの開発に携わる②

賃貸経営地域活性

海老名の魅力を引き出す イベント開催でにぎわいを生む

 前述のまちづくり協議会から派生して、14年には一般社団法人海老名扇町エリアマネジメント(神奈川県海老名市)が設立された。
 同法人は「地域プロデューサー」として、景観維持事業を展開。また、まちづくりのコンセプトを「広い空と雅みやびな風」に定め、自然と都市の調和を目指した「海⽼名駅⻄⼝地区まちづくりガイドライン」の運⽤や魅⼒あるまちづくりを推進している。具体的には、海老名駅西口でイベント開催を手がけている。

「15年に行政主体でまちびらきイベントを行いました。ただ、海老名市とは関係のない芸能人を呼んで行ったイベントはやはり盛り上がりに欠けました」と、当時を振り返る鈴木オーナー。同じイベントを開くなら、地域全体を巻き込み、地域の商店にも還元されるようなものを開催するべきだと考えた。

 17年から始めた「おでんナイトニッポン」はその一つだ。「そもそも、海老名駅前で飲んで帰るという文化はあまりありませんでした。どちらかというと、都内で仕事をして、都内で飲んでから帰ってくるだけの場所というのが海老名駅でした。行動変容を起こさせたいという考えの下、市と共同での企画でした」(鈴木オーナー)

 11月の中旬に海老名市で生産された米を使った新酒が出来上がることに注目し、海老名産の日本酒を使ったイベントを立ち上げることになった。秋に屋外でお酒を飲むとしたらおでんがいいだろうとテーマをおでんにしたものの、海老名駅西口にはおでん屋は1軒もない。

 「それぞれの専門店が作るオリジナルおでんを出そうということで、各飲食店に頭を下げて参加をお願いする日々でした」。そんなことをして人が来るのかと懐疑的な店が多かったものの、結果として24年に開催した第6回目のイベントは、約1万人以上の来客を記録するような人気イベントに育った。

インバウンド需要にも対応 農のある海老名市を残す

 鈴木オーナーの次なる計画は、父が退職後から育てているミカン畑のある里山を使った農家レストランのオープンだ。自宅のすぐそばにある2260㎡の土地を活用する。今までは単に農地としての使い方しかできなかった土地だが、3年前に生産緑地法の改正で規制緩和が行われ、レストランとしての活用ができることになった。

 「地産地消のように、そこで取れたものを使った料理を提供することで、周辺住民が楽しめる。そういう付加価値の高いものをつくっていきたいです」と話す鈴木オーナーだ。

 海老名市はインバウンド(訪日外国人)としての可能性も秘めているという。電車の乗り入れの良さは、もちろんインバウンドの受け入れにおいても優位だ。鈴木オーナーはそこに、おでんナイトニッポンでも日本酒を提供している創業140年の酒蔵の見学と農家レストランでの食事を組み合わせることができるとも考えている。
 「インバウンド需要の高まりがあれば、アパートを民泊に転用し収益を高めることも可能でしょう」と鈴木オーナーは言う。

▲父によって育てられたミカン畑

 「適正なバランスで不動産を持ちたいと思う一方で、不動産を増やすことでテナントの入退去や賃料、利回り計算といったストレスが増えることも事実です。それであれば、活用方法というソフト面で賃貸事業をマネタイズする事業モデルも考えていきたい」と言う。
 そのため、受け継いだ農地をすべて宅地に転用するのではなく戦略的に農地を残しておくことで、これからも先祖から受け継いだ海老名の土地を守り続けることができるのではないかと考えている。

(2025年5月号掲載)
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