My賃貸経営スタイル
崖っぷち人生からの脱却狙い賃貸事業始める
家族と共に築古再生して高利回りを実現
三重県伊勢市や四日市市を中心に11棟80戸を所有する稲見正人オーナー(三重県四日市市)。2024年には脱サラして専業地主になり、25年の年間家賃収入は4000万円を見込む。現在は「地域の人々のために役立ちたい」と生活保護受給者の居住支援なども行っている。だが、その稲見オーナー自身、今から15年ほど前にはぎりぎりの生活を送っていたという。
稲見正人オーナー(49)(三重県四日市市)

その頃の稲見オーナーは再婚をして間もない状況。双方が子どもを引き取っており、当時の会社員の収入では決して裕福とはいえない生活だった。
「たまに旅行した時でも、高速代が払えないので三重から横浜までずっと一般道を走りました。食事はコンビニエンスストアのおにぎりで、車中泊の貧乏旅行です。家族7人わいわいと楽しく過ごしてはいましたが、そんなある日、妻に『たまには子どもに栄養のあるものを食べさせてほしい』と言われたのです。その言葉が胸に刺さりました」(稲見オーナー)

18年に購入した伊勢市のアパート。最初は近所から「お化け屋敷」と呼ばれるような状態だった
「このままではいけない」と稲見オーナーは一念発起した。リーマン・ショックの少し後に始まったアベノミクス相場。そのタイミングで始めた投資信託が当たったことと、15年には友人から不動産賃貸事業用の物件購入を薦められたことで、賃貸事業に興味を持った。そこで投資信託を売り、保険を解約、車も手放し、妻と親からお金も借りて現金を用意。それを元手に、名古屋の区分マンション2戸と北海道のアパート1棟4戸を約1200万円で現金購入した。これが今に至る不動産賃貸事業の始まりだった。
物件の価値を上げるのは自分 先輩家主から学んだ2年間
物件購入から程なくして、何げない会話から同じ職場の同僚が不動産経営の先輩だと判明した。それが岡野傑オーナー(同)だ。
「週末は彼の物件に通って掃除やリフォームを手伝いました。自らはけを持ってペンキを塗り、物件の価値を上げていく姿に『この人は、本物の家主だ』と思ったのです」(稲見オーナー)
岡野オーナーのそばでリフォームの手伝いや不動産会社への同行訪問、家主の会への参加など、2年間の「修業」を積んだ。その間に稲見オーナーもまた、積極的に物件に関わる家主としての心構えが養われていったという。

20年に購入した伊勢市の戸建て5棟。ここから150万円程でリフォームを完成させた
18年、岡野オーナーの勧めもあり、伊勢市の2棟10戸のアパートを購入した。ボロボロの木造で、庭は雑木林のようになっており、地域でも長年「お化け屋敷」と呼ばれていた。リフォームにあたり、週末は泊まり込みで自ら掃除や修復作業に明け暮れた。家族の力も借りた。やれることは自分たちでやることで、専門事業者への依頼も含め借りたリフォームローンは300万円に抑えた。そして、購入から約1年かけてほぼ全戸空室の状態から満室に。賃料は3万円だが、リフォームを安く仕上げることができたため結果的に利回りは50%を達成。キャッシュも毎月入るようになった。
賃貸経営の実績が 信用を生み資産を拡大
20年に伊勢市の戸建て賃貸5棟を購入したことが、稲見オーナーにとって資産拡大が加速するターニングポイントとなった。1000万円のローンを組み5棟を購入。全戸空室だったが、同じように知人と共に自身でリフォームを施し費用を抑えて満室にした。結果的に1700万円で売却することができ、リフォームにかかった150万円を差し引いても約850万円の売却益を得た。
その後はこの売却益や、これまでの賃貸事業の実績で、金融機関のローン審査も通りやすくなったという。この段階までは取得額1000万円を超える物件はなかったが、21年には1300万円と3900万円、22年には重量鉄骨造の7800万円のアパートを含む2棟18戸を合計1億円超のローンで購入と順調に資産を拡大。23年には1棟22戸を4300万円で取得し、24年に晴れて会社を退職。専業家主となった。
「誰かの役に立ちたい」 利他の心が芽生えた
そして、生活に余裕が出てくることで「誰かの役に立ちたい」という「利他の心」が芽生え始めたという稲見オーナー。21年に購入した三重県鈴鹿市のアパートは、現在6戸中5戸に生活保護受給者が入居している。制度を知らない生活困窮者が生活保護を受けられるよう、稲見オーナー自身が手続きのサポートまで行った結果だ。

所有するアパートによっては定期的にバーベキューを実施することも
また「たまにはおなかいっぱいになってほしくて」と年に1度バーベキュー大会も開く。そうした積極的な交流により、稲見オーナーが物件に行くと入居者全員が「オーナーが来た!」と集まってくる。トラブル発生時も、この信頼関係のおかげで、稲見オーナーが現場に行くと収まるそうだ。「入居者から王様扱いされてしまいます。でも本気で頼ってくれるから、やりがいがありますね」(稲見オーナー)。こうした付き合いにより長期入居も実現している。
また今年からは民泊運営も行っており、すでに利用者からの評価は高いとのこと。これまでの経験を生かし、利用者が幸せになるために役に立つことを第一に考え、運営していく意向だ。
(2025年 7月号掲載)
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