電子版:不動産再生学講座 第3講:DIY型賃貸借

賃貸経営不動産再生

次世代不動産経営実務者養成カレッジ第3期 by次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー

不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。

当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部で行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、不動産のプロフェッショナルとして登壇した、フジ開発の上田耕太郎社長の講演をレポートする。

個のプロフェッショナルが動かす、新たな不動産再生
ニュータイプ不動産プロフェッショナル

『不動産のプロフェッショナルとして、次世代のまちを創るひとたち』

株式会社フジ開発 代表取締役 上田耕太郎氏

不動産屋だって、世界を変えられるはず!

私は大学時代、京都の立命館大学産業社会学部で、都市政策や地域活性化、特に映画の街・太秦の再生について研究しました。卒業後、UFJ銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行し、金融や財務、担保評価の基礎を学びました。その後、念願の不動産ファンド業界へ転職。不動産の証券化や投資評価、多様な不動産運用を経験しました。そして今、実家の不動産業を継ぎ、不動産コンサルティングやまちづくりに注力しています。

私が不動産という仕事に深く向き合うのは、「エリアの価値が上がらない限り、個別の不動産の価値は上がらない」という強い信念があるからです。そして、エリアの価値向上には「まちづくりが不可欠」だと確信しています。私の経営理念は「不動産を通じた社会課題解決企業」。自身の人生の目的は「不動産屋だって、世界を変えることができるはず!」と掲げています。オオカミと不動産屋は「悪者」のステレオタイプとされがちですが、社会課題の解決に貢献することで、この仕事でも世界を変えられると信じています。

私の空き家再生の鍵は「三方よし」

特に力を入れている社会課題が「空き家対策」です。2013年の統計では「8軒に1軒が空き家」でしたが、2043年には空き家率が約25%まで上昇するという予測もあります。さらに、統計には表れない「空き家予備軍」(居住実態はないが定義上は空き家でない物件など)も多く存在し、これらへの対応も重要だと感じています。

空き家の利活用の鍵となるのが、江戸時代の商人の教え「三方よし」の精神です。売り手、買い手、世間によし。これを空き家再生に置き換えると、「貸し手によし、借り手によし、世間によし」となります。当事者だけでなく、街の価値が向上することを意識すべきです。リノベーションやコンバージョン(用途変更)といった手法を駆使し、その物件やエリアに最適な活用方法を見出すことが、「三方よし」実現の第一歩です。

DIY型賃貸借で空き家を活かす

しかし、従来の不動産の賃貸借契約はルールが厳格で、空き家再生の妨げになることがあります。貸主には修繕義務や無過失責任があり、借主には用途変更や増改築の制限、退去時の原状回復義務があります。こうした状況を乗り越えるために注目しているのが「DIY型賃貸借」です。これは費用負担者が誰かに関わらず、借主の意向を反映して改修を行うことができる賃貸借契約です。

DIY型賃貸借には主に3つの投資スキームがあります。オーナーが改装費用を負担する「オーナー投資型」、借主が負担する「ユーザー投資型」、そしてまちづくり会社などの第三者が負担する「第三者投資型」(サブリース)です。

改装費180万円のシミュレーションを例に考えると、オーナー投資型やユーザー投資型では、オーナーの利回りや借主の初期費用が課題となり、再生が進みにくいのが現状です。これに対し、第三者投資型は、貸主は固定資産税額相当の安定収入、借主は自己資金なしでの入居(多少の家賃上乗せは許容範囲)、そして第三者となるサブリース事業者は事業としての収益を確保できるため、「三方よし」を実現しやすいスキームだと考えています。空き家再生においては、誰が資金を出すかという点に知恵を絞ることが非常に重要なのです。

3つの投資スキーム活用事例

これらのスキームを活用した事例をいくつかご紹介します。

① スラム化していた分譲マンション「上通りスカイハイツエクセル」は、オーナー投資とユーザー投資(DIY許容)の組み合わせにより、家賃が向上し価値を高めることができました。

② 雇用促進住宅を再生した「ファーストプレイス合志」では、合志市とまちづくり会社による第三者投資型サブリースを活用し、複数の部屋をリノベーションしてモデルルーム化しました。資金調達とスピードアップのため、民間不動産会社とリノベーション団体を巻き込んだ「再サブリース」も行いました。


③ 旧町役場を「健康と知の拠点」へコンバージョンした「合志市役所西合志庁舎(現ルーロ合志)」は、まちづくり会社が改修し、その後の運営を担う第三者投資型(独立採算方式)の事例です。改修費は15年間の賃料でまかなえるように計算し、資金を調達。地域の象徴的建物を、行政の維持管理費削減と地域活性化の両立を目指して再生しました。名称も工夫し、「西」を組み替えた「ルーロ合志」とすることで、地域への愛着を深める工夫を凝らしました。

④ 子育て世代の女性たちが空き家を活用してカフェを開業した「親子でごろん。くつろぎカフェ Jicca」は、まさにユーザー投資型。私が商品不動産として取得した実家の隣の空き家を使い、事業者(3人の女性たち)が費用を負担して再生した事例です。事業計画などの側面支援を行い、地域住民参加のDITワークショップ(DIT:Do It Together)を通じてコミュニティーの拠点となりました。

これらの事例で、私は前面に出る「プレーヤー」ではなく、「黒子」に徹することを意識しています。物件を利用したり運営したりする人々こそが主役であり、私は彼らの活動のために必要なお金の仕組みや契約の仕組みを整えることで、役に立てていると感じるからです。

私の仕事は「地域の価値を高めること」。土地や建物は所有しているだけでは何の価値もありません。使う人によって価値が生まれ、使い⽅で価値は変化していきます。不動産事業とは、まさに「まちづくりのプログラミングをすること」であり、設計者、資金提供者、そして使い手を結びつける、非常に面白い仕事だと感じています。

空き家問題は人ごとではない

皆さんの家や実家が空き家になる時代が来ます。お父さんやお母さんが高齢になるにつれて、実家が空き家になる可能性は高まります。その時に「空き家を貸す」という選択肢を「自分ごと」として考えてほしいのです。

設計やデザインの勉強をしている人もいるでしょう。不動産の仕組みを知ることで、自分の家を再生させることができる。家族のためにお金を生み出す仕組みをつくることも可能です。その際に、契約書や資金の動かし方のパターンを知っていれば、「あ、こうすれば自分の家が生き返るんだ」と分かってくるはずです。

私のような新たな視点を持つプロフェッショナルたちが、柔軟な仕組みと「三方よし」の精神で、これからのまちづくりと空き家再生を牽引していくことができれば、きっと「不動産屋だって、世界を変えられる」と証明できると信じています。

(2025年6月公開)
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