次世代不動産経営実務者養成カレッジ第3期 by次世代不動産経営オーナー井戸端セミナー
不動産業界において大きな変化が起こりつつある。そうした中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する𠮷原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催している。
当連載では、建築・デザインを学ぶ学生たちと、全国から集まったプロフェッショナルが一緒に受講する場として、九州産業大学建築都市工学部で行った全14回の「不動産再生学」と題した寄附講座を紹介。今回は、不動産再生のプロフェッショナルとして登壇した、スペースRデザインの本田悠人氏の講演をレポートする。
個のプロフェッショナルが動かす、新たな不動産再生
ニュータイプ不動産プロフェッショナル
『不動産のプロフェッショナルとして、次世代のまちを創るひとたち』
株式会社スペースRデザイン リノベーションリーダー 本田悠人

不動産再生で「まち」と「暮らし」を耕す
リノベーションと聞くと、単におしゃれな部屋にすることだと思われがちです。私たちが取り組んでいるのは、物件全体に新たな価値を吹き込み、賃貸不動産として、そして「まち」の一部として、より良い形に育てていく非常に重要な仕事です。
スペースRデザインは、困っているオーナーさんのパートナーとなり、不動産が「まち」「ひと」「オーナー」にとってより良い形に育つようにお手伝いをしている会社です。私たちは賃貸不動産経営の業務をワンストップ化し、一貫したコンセプトを柱に揺るぎない付加価値を創出しています。その中心にあるのが「共感」です。経営理念は「ひとと不動産の明日を、共感で結ぶ」。単に物理的な改修だけでなく、その建物や場所の背景にあるストーリーやポテンシャルを引き出し、それに共感する人たちと結びつけることを大切にしています。
私たちは建物をまちに開放することも重視しています。オープンアパート、レンタルスペース、ワークショップ、1階の店舗化などを通じて、建物を入居者以外の人にも開放することで、まちとの接点を増やし、建物のブランディングにつなげています。これまでに約50棟、平均築年数44~45年の古い物件を再生してきました。
不動産再生のための「デザイン」とは
私が考える「不動産業のデザイン」とは、「人(入居者、入居者予備軍、利用者など)の潜在的な部分(好印象、好奇心、創意工夫の誘発など)に訴えるために顕在的なものをつくりだすこと」です。かっこいい部屋をつくるだけでなく、その部屋に込められたストーリーや、そこでどんな暮らしができるかを想像させるデザインが重要だと思っています。デザインとは目に見える結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスそのものも含まれると考えています。
不動産再生のデザインフローは、まず目的やゴール(ビジョン)を明確にすることから始まります。ビジョンが明確になれば、次に現状の課題を明らかにする。さらに、その課題解決のためのプロセスを設定し、実行します。例えば、「まちで一番あいさつが飛び交う物件にする」というビジョンに向かうために、「入居者同士の関わりがない」という課題を解決すべく、「共用部に花壇やラウンジを設けて滞留時間を長くする」といった具体的なデザインと仕掛けを考えていくのです。
空室や宅配ボックスが無いといった一見ビジョンと関係ない課題も、ビジョンを意識して解決策を考えることで共感を生み、ゴールに近づくための作戦のヒントとなり得ます。物理的課題、心理的課題、潜在的課題など、さまざまな課題を把握することも重要です。そして、エレベーターの設置や大規模修繕のように「解決できない課題」も、ビジョンを明確にして、それを上回る価値の提供を計画・実行することで乗り越えていきます。

福岡にリノベーション文化をもたらした「山王マンション」
「山王Rプロジェクト」は、築古で空室が目立ち、経営状態が悪化していた山王マンション(1967年築)の再生プロジェクトです。目的はリノベによる空室再生と、福岡にリノベ文化をつくることでした。
建築家やアーティストなど7人のデザイナーと13室を同時にリノベし、その再生過程や情報をブログなどで発信、市場づくりを目指しました。その結果、13室はそれぞれ唯一無二の部屋となり、15年以上経過した今でも市場で競争力のある部屋ばかりです。単に完成品を見せるだけでなく、背景やプロセスの公開が共感を生み、それがブランドになった好事例です。共感してくれる人が入居し、DIYなどで暮らしを楽しみ、長期入居につながっています。
解体作業をワークショップとして開き、地域の人々や学生を巻き込み、多くのタッチポイント(接点)を創った「山王文化DIYプロジェクト」も、場を開く重要な取り組みでした。

ストーリーの再構築で競争力を回復
福岡市南区にある「フォリアオークス」は、エレベーター無しの5階建て、3点ユニットの部屋が多く、空室率約40%で管理を放置されていた物件です。大きな投資が難しい中で、最寄りの駅から自転車圏内という立地を活かし、リノベの目的を賃料回復と都会的感性のワンルームリノベ市場の創造に定めました。
コンセプトは「自分らしくアクティブに暮らすワンルーム賃貸」。内装は「個性の表現」を助長するデザインを意識。壁を剥がしてコンクリートを見せたり、土間を拡張したりするほか、DIY可能な壁の用意や自転車ラックやオープン収納の設置など、具体的な仕掛けを施しました。3点ユニットやエレベーターが無いという弱みを、「自分らしい暮らし」が実現できるという個性で上回らせることに成功した事例です。
終わりからつながるはじまり
九州産業大学と福岡女子大学の学生とのインターンシッププロジェクトも印象的でした。解体や工事現場に距離感を感じていた学生たちが、マンションの一室を舞台に既存の部屋と向き合い、「解体は終わりではなく、何かを生み出すはじまりである」という新しい価値観を見出したのです。「終わりからつながるはじまり」というテーマのもと、解体を「楽しむ」「魅せる」イベントを実施。古い建物をネガティブに捉えず、元々あるものから可能性を見出すプロセスを体験してもらいました。
学生によるアンケート結果から、古い物件に住む人ほど、新築に比べてリノベやDIYが可能な物件に住みたいという志向が強いことが分かり、古い建物のポテンシャルを改めて感じました。


私たちが得意とする「ビンテージビルブランディング」は「古さを武器に」します。経年した状態を活かし、時間の経過さえも感じられるデザインを目指しています。「あの建物なら住みたい部屋がありそう!」「あの建物に住みたい!」という建物への共感が、部屋選びの決め手になるのです。
リノベもDIYも、それ自体が目的ではありません。私たちの目的は、共感を生む不動産活用により、まちや市民の暮らしを豊かにすることです。予算という制限がある中でどこに焦点を絞るか、知識を圧倒的にインプットし、たくさんのものを見ること。そして何よりも、建築やインテリア、まち、文化が好きかという気持ちが重要です。これからも、古い不動産の可能性を引き出し、多くの共感を生むことで、次世代のまちづくりに貢献していきたいと考えています。
(2025年6月公開)
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電子版:不動産再生学講座 第3講:DIY型賃貸借
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