【特集】外国人受け入れの実績を積み、問題点を把握

賃貸経営入居者との関係づくり

<<入居前が肝心 トラブルを防ぐ 受け入れ方法>>
外国人受け入れを成功させるには、地域の環境や物件によって方法は異なる。不動産会社や不動産オーナーに実例を紹介する。

自社で外国人向け賃貸を手がける
実績を積み受け入れの問題点を把握

港不動産(大阪市)
金森匡邦社長

 大阪市⻄成区の地元に密着した不動産会社である港不動産(大阪市)は空室物件を外国人向けのシェアハウスや社宅にリノベーションし、貸し出している。同社で賃貸借契約を結んでいる入居者のうち、2割程度が外国人だ。中国人やベトナム人などの外国人技能実習生が過半数を占める。

 20年ごろから同社に外国人からの問い合わせが増えてきたが、受け入れる不動産オーナーは少なかった。オーナーはそもそも外国人入居の経験がなく「騒音や家賃滞納などのトラブルが発生するのではないか」という先入観で受け入れを嫌がっていた。そのため、自社物件で外国人入居者に関する実績を積むことにしたのだ。

 まず、昭和後期に建てられた戸建てを購入し、シェアハウスとしてリノベした。外国人技能実習生がいる大阪市西成区の介護事業者に社宅として貸し出したところ、問題はほとんど発生しなかったという。

 同社の金森匡邦社長は「想定していたよりもトラブルは少なく済みました。入居前に日本で暮らすルールを徹底的に説明すれば、ほとんど問題が起きません。日本の決まりを知らず、自国のルールで生活してしまうためにトラブルが起こるのです」と話す。

 国土交通省や公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(東京都千代田区)が作成した多言語対応のルールブックを活用して入居前に説明を行う。仲介会社にも、外国人を受け入れる際にルールを徹底して守るよう入居希望者に伝えることを依頼した。

 また入居後のトラブルを防ぐために、賃貸住宅入居者の生活をサポートするシード・コーポレーション(福岡市)の「くらしーど24」を導入。21カ国語に対応しており、24時間駆け付けサービスを利用できる。入居者に困ったことがあれば連絡するように伝えると先んじた問題解決になり、オーナーにとっても「港不動産なら外国人を受け入れてもサポートしてもらえる」という安心感につながる。

▲各国の言語に合わせた賃貸物件に住むルールブック

物件オーナーにリノベを提案 周辺企業の社宅として活用

 自社物件で実績を重ねた成功・失敗事例をもってオーナーにも外国人受け入れを提案していった。具体的には、築年数が古い、または駅から遠いなどで入居付けに課題を持つ物件のオーナーたちだ。日本人向けにリフォームなどを施しても費用対効果が低そうな物件は、外国人受け入れで挽回できると考えたからだ。興味を持ったオーナーから問い合わせがあり、昭和40年代に建てられた5階建ての物件をリノベした。

 「効果的なリフォームは、シャワーの入れ替えとWi–Fiの導入です。テレビモニター付きインターホンやオートロックなどのセキュリティー設備はあまり響きません。必要設備だけ整えれば、最低限の費用でリノベできます」(金森社長)

 外国人が地域と共生するためには、地元住民の理解も不可欠だ。外国人が入居する際に、同社が近隣住民へ一緒にあいさつに行くケースもある。「顔を合わせていると、外国人入居者に対する安心感につながります。少し音が気になったとしても『このくらいは我慢しよう』と考える人もいます」と金森社長は話す。

▲自社物件をリノベしてシェアハウスとして貸し出し

 

 それと同時に外国人にも周辺住民への気遣いを心がけるように促している。夜勤で働いている外国人入居者が、仕事後に賃貸物件に複数人で集まり、床に食器を置いて食事をしていたところ、同社に騒音の苦情が入った。同社社員が入居者に対して 「自分の祖父母が同じように騒音に悩まされていたらどう思うのか」と伝えると、理解してもらえた。

 同社は外国人向けの貸し出しを進めるうちに、社宅不足に困っている社会福祉法人とのつながりもできた。特に西成区では実習生を受け入れている企業が多く、社宅契約は安定的な家賃収入を得られる。

 もちろん空室を埋めることがオーナーにとっては重要だ。しかし、外国人を受け入れることで、地域の人口減少や空き家問題の解決ができる。特に、家主の世代交代がある中で、次の世代の家主が自分の賃貸経営に自信を持つことにもつながっていくだろうと金森社長は考える。

(2025年8月号掲載)
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