<<一代で財を築く>>
始まりはコイン洗車場の起業
承継準備と事業拡大を同時進行
父から受け継いだ家業の部品製造業を維持しながら、安定収益としての不動産事業を大きく伸ばしてきたのが兵庫県西宮市の森下康博オーナーだ。不動産事業を始めてから35年、増やした資産の円滑な承継のため、4年前には家族信託を組成し、公正証書遺言の作成も済ませたという。現在66歳の森下オーナーは「相続対策に加えて、認知症対策も済ませて万全です」と話す。
森下康博 オーナー(兵庫県西宮市)

駐車場・マンション・テナントビルを取得
年間家賃収入は1億円
森下オーナーは現在、駐車場4カ所・130台分、マンション2棟、テナントビル3棟を法人で所有している。これらを合わせた直近の年間家賃収入は約1億円。この資産のほとんどは森下オーナーが一代で築いたものだ。
「最初から不動産事業をしようと思ったわけではなく、不動産事業には人の縁があって出合ったものです。一つ一つを時代と場所に合わせて運営したら結果としてもうかった。不動産事業を始めてからは、入居者のクレーム対応や清掃、設備の故障などに苦労することもありますが楽しいですね」(森下オーナー)
森下オーナーの実家は父の代から家業で部品製造業を営んできた森下電機(兵庫県西宮市)だ。以前は「端子台」や「電線口出し座」などを製造していたこともあったが、ニッチな部品である「マスコンハンドル」と呼ばれる電鉄用の制御盤の部品に特化している。実は森下オーナーは日本で唯一の樹脂製のマスコンハンドルを作ることができる職人だ。マスコンハンドルとは、電車の運転台に設置される操作盤のギアを動かす持ち手の部分。鉄製のものならほかにもあるが、樹脂製のものを作れるのは森下電機だけだ。樹脂を溶かして鋳造。それを一つ一つ磨き上げる。制御機器と操作盤はセットなので、制御システムの変更があれば一気にマスコンハンドルの需要が高まり繁忙期を迎えるという。

マスコンハンドルを作成するため実際に使っている機械
森下オーナーは24歳の時、父から会社を受け継いだが継いですぐに父と衝突、一時は家業を畳んだこともあった。しかし、納入先からの熱い要望を受け、1998年に不動産経営の傍ら工場を再開した。
「もうけはあまりありませんが、樹脂製のハンドルの握り心地を好む運転士も多いと聞いています。必要とされているならと工場を再開しました。数年以内に長男と次男に技術を承継していく予定です」(森下オーナー)
コイン洗車場で月300万円の利益
元手にして不動産を増やす
本業である部品製造業自体は必要とされながらもそう収益が得られるものではない。本業を継ぐことになってからも不動産事業を伸ばし続けたのは、本業以外に安定収入となるものをつくろうと考えた結果だという。
まず、30歳の頃にコイン洗車場を造った。
かねてから自分で事業を始めたいとあれこれ考え、周囲を観察していた森下オーナー。市営住宅に住む人は車の手入れを怠らないたちであることに目を付けた。これを商売にしようと思い付いたのだという。4000万円を借り入れて設備投資。兵庫県伊丹市の市営住宅の近くの土地を格安で借りて開業した。コイン洗車場は仕入れもなく電気代、水道代のみで利益率も高い。
これが当たった。「絶対にもうかる」と確信していた森下オーナーではあったが、予想を上回る月300万円もの利益があったのだ。「こんなにもうかるとはと衝撃を受けました」と振り返る。客単価こそ数百円だが、車好きたちがコイン洗車場に列を成し、ちりも積もれば山となるうまみの多い商売となった。事業初年度に借り入れはすべて返済することができた。
2年目以降は手元にキャッシュがたまる。土地を買い始めたのはこの頃だ。ただ、当初は不動産事業を始めるつもりはなかった。たまたま、売買仲介の仕事をしていた友人が手がけていた売買の話が流れたタイミングで、自分の手元資金に余裕があったことから「友達を助けよう」という軽い気持ちで土地を購入したという。
この時購入した土地は阪神電鉄本線甲子園駅に程近い商業地。手元のキャッシュで4000万円で購入した。
- 駅前の英会話塾は30年以上入居している
- プリティーベアーには学習塾が入居する
土地にはすぐ借り手が付いた。借り手は英会話塾。「どうしても駅前のこの土地を借りたい」との申し出があり、建築資金協力金1600万円を出してくれた。「こちらは建物への支出がほとんどない状態で貸し出すことができました。月額家賃は約60万円で、あれから約30年たった今も入居してくれています」(森下オーナー)
この経験で、不動産事業の魅力に気付いた森下オーナー。38歳の頃、少しだけ売り上げが下がったことで辞め時だと判断したコイン洗車場を撤退。そのタイミングで、甲子園球場の近くに駐車場を取得した。
- パパベアーパーキング
- 一等地の物件はテナント貸しで収益上げる
しばらくは駐車場をメイン事業としていたが、メガバンクから大阪市中央区谷町9丁目の土地の取得を勧められたことがビルやマンション経営に力を入れるきっかけとなった。大阪メトロ御堂筋線谷町駅の入り口まで近い。「中央区の一等地なんて、家主のみんなの憧れ中の憧れです。こんな話が自分に来た理由はわかりませんが、これはチャンスだと思いすぐに購入を決めました」(森下オーナー)。2006年に4億2000万円で全19戸の建物1棟を新築。当初はマンションとして貸していたが、現在はほとんど事業者が入居しており、テナントとして経営している。これを契機に森下オーナーは家主業を営み始めた。マンションやビルを購入するようになり、現在に至る。
(2025年8月号掲載)
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相続や事業承継対策を済ませてなお、事業成長に意欲
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